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2007年11月30日(金) 13時16分

亀山早苗コラム〜「僕は何をやってもだめな男です」オーマイニュース

 契約社員の治彦さん(33歳・仮名・以下同)は、なんとなく心が晴れない日々を送っている。30歳で上司とそりが合わずに会社を辞めたが、結局、正社員として再就職することができず、ようやく契約で今の会社に入った。

 仕事がないよりはましだと思うが、将来の展望が見えない。5年ほどつきあっている由梨さん(31歳)は、彼が再就職先を探してバタバタしている間に、仕事をしながら専門学校へ通って資格をとり、会社でも将来を嘱望される立場になっていた。

 「僕のほうが年上なのに、完全に彼女に負けている。それが非常に苦痛なんですよね。前に彼女にそんな話をしたら、笑い飛ばされました。『私はあなたが何をしていても、大好きだもん。やりたいことをしたほうがいいわよ』って。話だけ聞くと、すごくいい彼女でしょ。でもその寛大さにかえって傷つくんですよね、こっちは」

 治彦さんは、彼女に差をつけられた、負けたと思ったところから、実は彼女を愛せなくなっていると苦しそうに言った。彼女が悪いわけじゃない、それはわかっている。なのに、彼女の寛大さが、彼女自身の余裕に思えて、人間的にも差をつけられているような気持ちに陥ってしまうのだという。

 「彼女にしてみたら言いがかりでしょう。でも、男のプライドみたいなものをわかってもらえないのかなと思う面もあります。とはいっても、僕自身がプライドって何だろうと考えてしまう状況なんですが」

 デートはしているが、お金のかかるところには行けない。時には彼女のおごりでディズニーランドに行ったりするが、心から楽しむことはできないようだ。

 「前の会社を辞めたところで、やっぱり僕という人間はダメになってしまったんですよ。どこへ行っても嫌な上司はいるし、正社員だったときのほうが言いたいことも言えた。今は契約だから、黙々と言われるがままに働いているだけで、なんのやりがいもないんです。だけど彼女は、契約から正社員になればいいと簡単に言う。あるいは『大きな夢に向かってがんばればいいじゃない』なんて軽く言うこともある。励ましてくれているんだとは思うけど、僕はそんな器じゃないんですよね」

 それが心苦しい。そして、自分の小ささを見抜いてくれない、わかってくれない彼女に対して、ときどき理不尽な怒りがこみ上げてくることもある。

 「そもそも、人生ってそんなに目標が必要なんでしょうかねえ。彼女はアグレッシブに生きていくことが一番いいんだと思いこんでいるみたいだけど、ダメな僕から見ると、別に生き延びているだけで十分じゃないかと思ったりするんですよ。怖いから、彼女には言えないけど」

 由梨さんは、叱咤激励(しったげきれい)しながら、治彦さんが「立ち直る」のを待っている。だが、治彦さんには、立ち直るという意識がない。

 「考えてみれば、もともと将来何になりたいという目標があったわけでもない。目標をクリアしながら階段を上っていくタイプの彼女とは違うんです。一度、『オレはもうダメだから、ほかの男を見つけたほうがいいよ』と言ったら、彼女に泣かれて大変だった。彼女は、どこか自分の理想の男を、僕にかぶせているんじゃないかと思うことがあるんです」

 つらい目にあっても立ち直って、自分の目標に向かってがんばる男。今は契約社員だが、そのうち正社員になるか、新たな夢に向かってまい進するに違いない男。由梨さんが、自分自身をそう見ているような気がしてならないと、治彦さんは言う。

 「なんだか彼女との関係に疲れてきちゃいました。だけど、別れを切り出すきっかけもないし、切り出したとしても、おそらく彼女は『今はこういう状態だから、そんなふうに気弱になるのよ』と言うでしょうね。彼女は僕のことが好きなのではなくて、この状況にいる僕とつきあっている自分をドラマチックに考えているだけのような気がします」

 目標に向かって走ることに疲れた男たち。自分のやりたいことに向かって走ることが心地いいと知った女たち。男女の関係に乖離(かいり)が起こっても不思議ないような社会状況にあるのかもしれない。

(コラムニスト:亀山 早苗)

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