船場吉兆(大阪市中央区)の牛肉産地偽装事件が、生産者や販売業者に波紋を広げている。牛肉ブランドの産地競争が激しくなるなか、「但馬牛」と偽られた鹿児島や佐賀の生産者は「あまりにばかにしている」「イメージダウンが心配」と怒り心頭だ。
農水省によると、船場吉兆は鹿児島、佐賀県産の牛肉を「但馬牛」と偽り、大阪市の百貨店で売っていた。
鹿児島県出水(いずみ)市で約500頭の「鹿児島牛」を肥育する久留(ひさどめ)勉さん(64)は「非常に腹が立つ。(食品の履歴を管理する)トレーサビリティーが導入され、うそはつけなくなったはずなのに。モラル以前の問題だ」と憤る。
01年から同市内の肥育農家と共同出資し、福岡市内で焼き肉店を経営する。生産者の顔が見える店として、品質管理に努めてきた。「生産者は品質向上に一生懸命取り組んでいるのに、それに逆行するような話。イメージダウンが一番こわい」
「黒毛和牛肥育のカリスマ」とも呼ばれる佐賀県伊万里市の畜産農家古竹隆幸さん(44)も「ブランド競争は激しくなっている。大阪では関西の但馬牛の方が受けがいいのかもしれないが、プライドを持って取り組んでいるだけに心外だ」。
「伊万里牛」という独自のブランド作りに取り組んできた伊万里市の畜産農家松尾勝馬さん(59)は「まじめにやっている農家をばかにした話だ」。例年なら11月後半から鍋物や贈答用に牛肉が売れる時期なのに「今年は動きがにぶい。吉兆の問題で消費者が牛肉に不信感を持ったのも一因では」とこぼす。
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<但馬牛> 兵庫県北部の但馬地方で改良されてきた黒毛和牛の一種。霜降りの割合が多い肉質などから、食肉用として高い評価を受け、特に優良な一部の上級肉が「神戸ビーフ」に認定される。長く他地域の品種とは交配をせず、血統の純粋化も進んだ。「松阪牛」や「近江牛」などの銘柄牛のルーツにもなったほか、全国の産地で種雄牛としても多く活用されている。