高級料亭「船場吉兆」(大阪市)の牛肉産地偽装事件で、大阪・ミナミの商業施設内にある同社直営の「心斎橋店」が、鹿児島県産の牛肉を使った料理を「但馬(たじま)牛すき鍋御膳(ごぜん)」などとして客に提供していたことがわかった。これらの肉は本店が一括納入し、心斎橋店が但馬牛と表示して使うことを把握していたという。メニューの表記が実際より「著しく優良」と誤解を与える場合は、不当景品類及び不当表示防止法に触れる可能性がある。
「船場吉兆」心斎橋店の出入り口に展示されていたメニュー。「但馬牛」と記されていた=大阪市中央区で
船場吉兆は9日、福岡市の店舗での不正表示と本店での牛肉や鶏肉を使った贈答用商品の産地・品種偽装で、農水省から日本農林規格(JAS)法に基づき改善を指示された。湯木正徳社長は同日の会見で、「館(店)の場合は(偽装はないと)断言できます」と説明。これまで店で出す料理については問題はないとしていたが、実態は大きく食い違っていたことになる。
心斎橋店は昨年1月、オリジナル料理として「但馬牛すき鍋御膳」と「但馬牛網焼き御膳」を考案し、メニューに加えた。価格はいずれも8400円で、店舗前には料理の写真を掲げ、「但馬牛ロース肉」と記載していた。
関係者によると、問題の肉は、心斎橋店の料理長が但馬牛と表示した料理に使うことを前提に本店に一括発注。本店は業者から仕入れた肉の一部を心斎橋店に納入していた。心斎橋店では、懐石料理と弁当にも同じ肉を使っていたが、産地は表示していなかった。
先月末、船場吉兆が福岡市の百貨店に出店する「吉兆天神フードパーク」で菓子・総菜の不正表示が発覚。同店舗の責任者が心斎橋店長の湯木尚治取締役だったことなどから、料理長が本店に「うちの肉は本当に大丈夫か」と聞くと、「但馬牛ではなく鹿児島産だ」と回答したため、心斎橋店は今月8日ごろ、両御膳をメニューからはずしたという。
同店幹部は朝日新聞の取材に事実関係を認めたうえで、「現場は全く知らされておらず、但馬牛と思いこんでいた。但馬牛と思って食べたお客様に申し訳ない」と話している。両御膳は1日2〜3食出る程度だが、過去の注文客を特定することができないため、謝罪文を送るなどの措置はとっていない。
心斎橋店は本店が大阪府警の家宅捜索を受けた16日は完全休業したが、17日は予約客のみ受け入れた。18日昼は店を開け、夜以降の営業は未定という。
JAS法は、店頭販売される総菜などの食品について食材の原産地表示を義務づけているが、飲食店のメニューは対象外になっている。一方、不当景品類及び不当表示防止法に違反し、公正取引委員会の排除命令に従わない違反者には、2年以下の懲役または300万円以下の罰金が科せられる。
http://www.asahi.com/national/update/1117/OSK200711170100.html