2007年11月13日(火) 12時00分
ナベツネ氏の「憂国の想い」(ツカサネット新聞)
◆連立の根回し◆
今回失敗に終わった自民・民主連立の根回しをしたと伝えられる、読売グループ会長のナベツネこと渡辺恒雄氏が、伝えられる通りなら連立は自分が仕組んだはずであるのに、小沢氏の方から持ちかけたと自社の読売新聞に報道させたのは、小沢氏が党内をまとめられなかった事の腹癒せだろう。
米国からは時期を合わせたように政財界に強い影響力を持つデビット・ロックフェラー氏やゲーツ国防長官が来日する一方、福田首相のワシントン詣でが11月中旬に迫っている中で、ナベツネ氏本人にも相当な圧力が掛かっていたはずだ。
米国代理人筆頭としての宿命と斬って捨ててしまえばその通りだが、インド洋での海上自衛隊による多国籍艦船への給油継続を至上命題としてワシントンから通告されていると推察される。
ブッシュ政権は、給油継続に反対する小沢氏に対して本当に怒っている。またそれを抑えられない自民党とナベツネ氏にも相当に苛立っている。ブッシュ政権がそこまで給油継続にこだわるのは、イラク戦争に加えアフガン戦争にまでが大義がないとの方向に幾分でも国際世論が傾いて行けば面目を潰され、また国内でも政権基盤がグラつくからだ。
加えてそれ以上に、今後の中東制圧の一環として、国連決議は取れないまでも諸外国の同意や黙認を背景にイラン攻撃等の軍事行動を行う際には障害となるからだ。こういった軍事行動が必ず行われる訳ではないが、崖っぷちの覇権国家である米国がオプションとして、より多くのフリーハンドを持っていたいと思うのは想像に難くない。
◆小沢氏の思惑◆
小沢氏は給油反対でワシントンに一種の反旗を掲げ、給油の代わりに国連決議に基づくISAF(国際治安支援部隊)参加等で国際世論の非難をかわし、同時に米民主党系の人脈の後押しにより米国世論を押さえる戦略だった。
しかし、民主党内及び国民世論は依然ISAF参加に反対であるし、ワシントンからの圧力はいよいよ強まり、独自外交でワシントンの虎の尾を踏んだ政治上の父親、田中角栄の運命が自分に重なり、常識で考えれば連立等は解散総選挙後に検討すべきであるのに、今回のナベツネ氏の誘いに思わず応じてしまったと言うのが大体の真相だろう。
連立破綻後の辞任会見で小沢氏が「民主党には政権担当能力が無い」と言ったのは、党内若手や左派がこうした現実のパワーゲームを認識していない事を含んでのものだ。
◆ナベツネ氏の「憂国の想い」とは◆
連立失敗後のマッチポンプ振りは老醜と言わざるを得ないし、虚偽報道の疑いが強いが、ナベツネ氏も自身の保身だけで、今回の連立を仕組んだとまでは言い切れない。良くも悪くもワシントンの意に沿って行くのが、結局は日本の国益であるという信条による「憂国の想い」から出た行動と言えるのかもしれない。
一方、小沢氏も従来からの米国追従に一矢報いて、日本の主体性を取り戻したい、このまま米国の世界戦略に巻き込まれて行くのはリスクが大き過ぎ、国際的大義も立たないという想いから敢えて国連の錦の御旗を拠り所としている。
衰退に向かいつつあるが、依然世界唯一の超大国である米国。衰退しつつあるが故に、なり振り構わない行動に出る可能性のある米国。その切っても切れない米国との関係をどうして行くかで、袂を分かってはいるが、この巨大なリバイアサンを相手にナベツネ氏も小沢氏も辛い。
今国会は給油問題を通して、その一応の決着の場となる。国民にはどういう選択をするにせよ、特にこの時期には表面的な現象に踊らされること無く思慮深い判断をして行く義務があるだろう。
◆政局関連記事
二千億円の“思いやり”?「でもそんなの関係ねぇ」 (記者:佐藤鴻全)
■関連記事
佐藤鴻全記者の書いた他の記事 「政治・政治全般」カテゴリー関連記事
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20071113-00000008-tsuka-pol