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2007年11月07日(水) 11時34分

長谷川洋三の産業ウォッチ 自動車業界:GMジャパン社長の希望的観測J-CASTニュース

■「社内の空気がだいぶ明るくなった。やろうと思えばできるのではないかという気持ちになったのだと思う」

 米ゼネラルモーターズ(GM)・アジア・パシフィック・ジャパン社長のリック・ブラウン氏は2007年10月22日、東京都内のホテルで開いた2008年モデルの新型キャデラックCTSの発表会の後の懇談でこうささやいた。
 GMは9月末の全米自動車労組(UAW)との交渉で経営の重荷だった医療費保険を分離することなどで合意、大幅なコスト削減効果が見込めるとして投資家の間で期待感が広がっていることにコメントした。GMはトヨタ自動車と世界一の座を争って熾烈な戦いを繰り広げているが、GMの朗報はトヨタにとっては手ごわいライバルの復活も意味する。

 トヨタ自動車は2007年にも世界販売台数でGMを抜いて世界最大の自動車メーカーになるとの観測が強いが、GMの今年1−9月の世界販売台数はトヨタを1万台上回り世界一を確保、首位争いはギリギリまでもつれこんでいる。GMが中国など新興市場国で健闘していることが理由で、ワゴナー会長は東京モーターショー期間中にもかかわらず日本を素通りして上海を訪れて愛嬌を振りまくなど、いまや中国にも抜かれた日本市場よりも強い成長をみせる新興市場てこ入れに力点を移している。ブラウンGMジャパン社長も「GMは日本では小さな存在だが、中国ではトヨタの追い上げに対抗する布石を打つ」と強調した。「われわれは決してナンバーワンのポジションをあきらめない」−−。今年1月のデトロイトモーターショーでワゴナー会長は私に強調したが、そのしぶとさを目の当たりにする感じだ。

 「トヨタ綱領にうたう時流に先じる精神は今でも大切です」−−。追い上げる立場のトヨタ自動車の渡辺捷昭社長は10月23日、東京自動車会議で豊田佐吉の遺訓を振り返りながら今後も時代の先を行く源流経営の尊さを説き、「大事なのは量より質」と強調したが、半世紀以上にわたって世界一の座を守り続けてきたGMのしぶとさから学ぶこともありそうだ。

【長谷川洋三プロフィール】
経済ジャーナリスト。
BSジャパン解説委員。
1943年東京生まれ。元日本経済新聞社編集委員、帝京大学教授、学習院大学非常勤講師。テレビ東京「ミームの冒険」、BSジャパンテレビ「直撃!トップの決断」、ラジオ日経「夢企業探訪」「ウォッチ・ザ・カンパニー」のメインキャスターを務める。企業経営者に多くの知己があり、企業分析と人物評には特に定評がある。著書に「クリーンカー・ウォーズ」(中央公論新社)「ウェルチの哲学「日本復活」」、「カルロス・ゴーンが語る「5つの革命」」(いずれも講談社+α文庫)、「レクサス トヨタの挑戦」(日本経済新聞社)、「ゴーンさんの下で働きたいですか 」(日経ビジネス人文庫)など多数。


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