記事登録
2007年11月01日(木) 16時42分

これぞ「鶴瓶のらくだ」や!!オーマイニュース

 歌舞伎座に行った。といっても、別に歌舞伎を見に行ったわけではない。「鶴瓶のらくだ」全国ツアーの東京公演に行ったのだ。

 落語のツアーというのも珍しいが、さらに珍しいのはその公演場所である。福岡の嘉穂劇場から始まり、彼の地元大阪の松竹座まで全国8カ所、昔の芝居小屋など「娯楽の殿堂」と呼ばれた、古く伝統のある劇場をまわるものだ。

 私の趣味のひとつに、落語鑑賞がある。

 飛行機の機内放送で、音楽のチャンネルで聴きたい曲がなく、何気なく合わせた落語のチャンネルを聞いて、はまった事がきっかけで、暇を見つけては寄席巡りをするようになった。

 1人で何役もこなし、ストーリーを展開していく、落語というものの奥深さに惹かれたのだ。

 古典落語や新作落語、いろんな落語家のいろんな噺を聴いてきた。その中で、今まで聴いたことがなかった噺、それが今回鶴瓶師匠が挑んだ古典を代表する大作「らくだ」だ。

 ちなみに「らくだ」とは、明治時代に3代目の柳家小さんが、大阪から東京へ移入した噺で、大阪では「らくだの葬式」と呼ばれている。

 怪奇的ムードの中に大家と店子、長屋の者同士の付き合いという裏長屋の庶民生活を浮き彫りにし、それらを背景に、二人の主人公の関係性が、飲むほどに、酔うほどに、次第に逆転していくところがこの噺のクライマックスである。

 これは彼の師匠である6代目・笑福亭松鶴(故人)の十八番であり、弟子の中で笑福亭松喬以外には誰も演じていない秘蔵の大ネタで、鶴瓶師匠にとっては「おやっさん(松鶴)の聖域」であった。

 「鶴瓶師匠は、稽古をするうちに「らくだ」の奥深さに魅了され、そして『第10回 東西落語研鑽会』で大御所三遊亭円楽師匠のあとの「大トリ」という大役を任され「らくだ」を披露した。それは、師匠・松鶴の至芸「らくだ」を追善するような語り口と、熱演につぐ熱演で、1時間強の長講を見事に演じ切ったのである」(「鶴瓶のらくだ」公式HPより引用)

 この噺は1時間以上に渡る超大作であるため、1人当たりの持ち時間が短い寄席では出来ない演目なのだ。

 そういう噺なだけに、いままで聴く機会がなかった僕にとってはまさに千載一遇のチャンスだった。

 まだ公演中ということなので、詳細を書くのはやめておくが、今までの古典落語の「ワク」をいい意味で大きくはずれる演出で、まさに一大エンターテインメントに仕上がっている。

 その大作「らくだ」の前に、「私落語」を2席聴いた。「私落語」とは鶴瓶師匠独自の噺で、私小説よろしく、自分の体験談を落語にしたもので、これがまた面白い。

 笑いの中に温かさがあり、ほろりとさせられたりもするので、こちらも非常に興味深いものだった。

 ちなみにこの日の演目は、学生時代の思い出をつづった「青木先生」と、子供の頃の母親との交流を描いた「オールウェイズ お母ちゃんの笑顔」だった。

 詳細は書かないが、この「らくだ」、噺の最後の最後で「鶴瓶のらくだ」と銘打った意味がわかる。

 久しぶりに古典落語の「真髄」を見た気がした今回の高座、木戸銭(入場料)が高額だったのが正直気にはなったが(S席8500円・A席7500円)、それなりの価値はあったと思う。

 是非ともこういったイベントは続けてもらって、大衆芸能としての落語の「復権」を果たしてもらいたい。

(記者:小澤 健二)

【関連記事】
小澤 健二さんの他の記事を読む

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20071101-00000004-omn-ent