CPUメーカーとして最新技術を提供してきたインテルが、エンドユーザーとの接点を増やしている。
吉田和正共同社長が秋葉原に出向き、パーツショップが開催するイベントに参加するといった動きに加え、高齢者向けに続き子供が対象のイベントを主催・協賛するなど、新たなユーザー層と積極的に触れ合おうとする姿勢が見える。
社長自らエンドユーザーにアピール数年前まで、インテル自身がエンドユーザー向けのイベントを開催することはほとんどなかった。もちろん、当時から新しいCPUが発売されれば、それに伴う深夜発売イベントが開催されることはあった。が、それはショップが開催するもので、そこにインテル幹部の姿はなかった。しかし、最近のインテルは全く違う。新CPUが発売されることになれば、吉田共同社長自らが秋葉原のパーツショップを回り、エンドユーザーにインテルの存在を強くアピールするのだ。
対エンドユーザーという視点では今年、さらに新しい試みが加わった。7月下旬、4日間にわたり、東京・巣鴨地蔵通り商店街に「すがもパソコン茶屋」を開設。パソコンに不慣れな高齢者を対象に、パソコンの使い方をアピールした。続く8月20日〜21日の2日間は、神宮球場を会場として行われた「神宮キッズ・キャンプ」の協賛企業として、レノボ・ジャパンとともに小学生に対してパソコンの歴史やCPUの解説などを行った。
「プラットフォームメーカー」への転身はかる“インテル”という企業名も知らないであろう子供や高齢者向けのイベントにも、積極的に登場するようになった理由について吉田共同社長は「インテルは技術の会社だが、この技術も、利用者の方々が面白いと感じ、評価してもらうことがなければ意味がない」と力説する。
エンドユーザーに自社の技術を理解してもらうために、インテル自身が進んでアピールするようになった背景として、同社が06年から進めてきた「CPUメーカー」から「プラットフォームメーカー」への転身を挙げることができる。
自らをCPUメーカーとカテゴライズしていた時代のインテルは、新しいCPUを開発しても、それ以外の部品採用などについては、パソコンメーカーの裁量に委ねていた。
しかし、現在ではプラットフォームメーカーとして5分野から成る、新しい基盤を発表している。それは、プロセッサー、通信モジュール、メモリーなど『ハードウエア』、OS、アプリケーションなど『ソフトウエア』、マイクロプロッセッサーの高速化技術であるハイパースレッディングテクノロジーなど『テクノロジー』、Wi・FiやWiMAXなど『標準規格と構想』、そして、デジタルメディア配信や通信サービスなど『サービス』、という5分野だ。
CPUメーカーであれば最新技術の提案しかできないが、プラットフォームメーカーとしてならばユーザー別仕様などについても提案することが可能となる。これまでのデスクトップ向け、モバイル向けといった大まかな分類とは大違いだ。
プラットフォームとしては、「個人向け」「企業向け」など、大枠の区別に過ぎなかったものに7月、そこにサービスなどを付加した「シニア層向け技術要件」を発表。これは特定マーケット向けパソコン仕様提案の第1弾で、さらにラインナップが増えることが想定される。
現在のパソコン市場は、以前のように新しいテクノロジーが発売されたからといって即売り上げが伸びるというものではない。パソコン買い替えのサイクルは長くなり、普及も進んだことで、新規ユーザーの獲得は以前より難しくなっている。こうした環境の中、プラットフォームメーカーとして今後、どれだけの新規市場開拓が可能なのかを探る。
インテルのエンドユーザーとの接点を積極的に求める姿勢から、そんな狙いが垣間見える。(フリーライター・三浦優子/2007年9月24日発売「YOMIURI PC」2007年11月号から)
ハイパースレッディングテクノロジー プロセッサー内回路の空き時間を有効利用して、1つのプロセッサーをあたかも2つのプロセッサーであるかのように見せかける技術。 WiMAX 米国電気電子学会で承認された、固定無線通信の標準規格。2〜11GHzを利用し、数キロ先の見通しのきかない範囲にある端末とも通信できる。