江戸時代の粗末な長屋を指す「九尺二間(にけん)」(約十平方メートル)で、若者たちの“立志伝”を支援しようという試みが、東京・日本橋の問屋街で進んでいる。九尺二間の狭い空間を、新しく仕事を始める若者に小さなオフィスとして安く貸し出し、そこから活躍の場を広げてもらおうという企画。問屋街では「若者たちの熱気で、地域のにぎわいも取り戻したい」と期待を込める。 (中山洋子)
九尺二間の貸しオフィス計画は今年七月、中央区日本橋横山町の「横山町奉仕会館」内のスペースで始動した。
周辺は約五百社の衣料品・雑貨問屋がひしめく日本最大の現金問屋街。江戸から続くファッションの街だが、近年、空きビルや空き店舗に悩み、地域活性化の試みを重ねてきた。
今回のプロジェクトもその一環で、地域の再生に取り組む東京理科大の宇野求教授が発案し、建築家の青木豊実さん(32)が、実際にオフィスに入居しながら試行。最低限必要な設備や、周囲の店舗への影響など、年内をめどに調べている。“実験”が終わり次第、本格的に入居者を募る予定。
貸し出すスペースは、一九六〇年代のレトロな建物内の約四十平方メートル。元店舗だった一角を四分割し、江戸時代の九尺二間とほぼ同じ広さの約十平方メートルを提供する。入居期間は最長でも二年間とし、デザイナーや建築家の“卵”などに貸すことを想定している。
宇野教授は「日本橋には、九尺二間の長屋から始まり、大店(おおだな)を目指すというサクセスストーリーの伝統がある。ここを始点に、地域の空きビルなどに移り、日本橋生まれのクリエーターが育ってほしい」と期待を込める。
青木さんの知人で“実験”に参加している建築家上垣内伸一さん(42)は「地域の人たちが通りがかりに声をかけてくれる。若いクリエーターたちにとって、地域にもまれて世に出るのは理想的かもしれない」と実感を語った。
青木さんは「小規模オフィスが若者たちの足がかりになるだけではなく、その活動が地域の活性化につながる仕組みを考えていきたい」と話している。
(東京新聞)