うつ病などの治療薬として承認されている向精神薬「リタリン」(塩酸メチルフェニデート)による薬物依存が多数発生しているとして、製造販売元のノバルティスファーマ社(東京都港区)は20日、うつ病についての効能効果を取り下げる方針を固めた。近く薬事法に基づき厚生労働省に取り下げ申請する。同省によると、不適切使用を理由に製薬会社が薬の効能を狭める申し出をするのは、極めて異例という。
同社はこれに先立ち、精神科関連の学会などに打診、理解を求めた。同省は取り下げ申請を受けた後、諮問機関の薬事・食品衛生審議会にかけるなどして正式決定する。
取り下げが認められれば、うつ病患者への処方は医療保険が適用されなくなる。その後も保険外診療での処方は医師の裁量で可能だが、効能を外すことで安易な処方を食い止める狙いがある。
リタリンは58年、うつ病治療薬として販売開始。現在は「難治性うつ病」「遷延性うつ病」のほか、日中突然眠くなる睡眠障害「ナルコレプシー」の効能が承認されている。同社はこのうちうつ病についての効能を外す方向で、準備を進めている。
背景には、脳波検査などできちんと診断できるナルコレプシーに比べ、自覚症状に基づき診断されるうつ病に対しては、不適正な処方がされやすいなどの事情がある。またリタリンが使えなくてもうつ病治療には多様な新薬が登場しており、患者の不利益は限定的という。
同薬は服用すると覚せい効果が得られることがあり、薬物依存の恐れが指摘されてきた。同社は90年代半ばから厳密な診断や処方を求める文書を医師に配布、注意を促している。
だが日本精神神経学会に所属する医師らを対象に精神科医でつくる研究会が04年、実施したアンケートでは、回答医師の3割近くが「過去1年間にリタリン依存者や乱用者と思われる患者を診察した」と答えた。
今月18日には東京都が、医師の不適正な処方で通院者が薬物依存症に陥った疑いがあるとして、新宿区のクリニックを医療法にもとづき立ち入り検査している。
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〈キーワード:リタリン〉中枢神経に作用して、興奮や覚せい効果をもたらす。うつ病治療薬として承認され、58年の発売当初は軽症も対象だったが98年、「難治性うつ病」などに限定された。ナルコレプシーへの効能は78年に追加。子どもの注意欠陥・多動性障害(ADHD)治療にも一般的に使われている。06年の販売実績は3370万錠で02年の1.2倍。