ソースネクストが進める「更新料ZERO」戦略に対して、ライバルのソフトメーカーがあの手この手で対抗策を模索している。目指す方向は、単なるパッケージ販売ではなく、オンラインを活用したサービスで付加価値を提供する路線だ。
バージョンアップ無料で新規ユーザー囲い込みソースネクストは昨年7月に「ウイルスセキュリティZERO」を発表し、約1年間で、「更新料ZERO」路線を定着させた。今年6月に「携快電話ZERO」、9月に「筆王ZERO」を発売する。
ソフトメーカーの従来のビジネスモデルは、有料バージョンアップによって、ユーザーを固定化するとともに収益を上げるというものだった。これに対して、ソースネクストの「ZERO」戦略は、バージョンアップを無料で行うことによって、広範な新規ユーザーを囲い込む狙い。
競合各社の反応は早かった。イーフロンティアも更新料無料のセキュリティー対策ソフトを発売したほか、トレンドマイクロは1本当たりの適用台数を増やした。では、「ZERO」戦略を競合他社はどう見ているのか。
「ウイルスセキュリティZERO」の競合製品を発売するシマンテックでは、「調査会社から発表された資料を見てもらえばわかるが、昨年の年間シェアでは依然として当社がトップになった」と、実績面では変動がなかったことを強調する。その要因として同社は、「今年、わが社がセキュリティーソフトを発売して25年目に当たる。それだけ歴史を重ねてきたことと、品質が信頼されていることなどがその要因と認識している」と説明する。
今回の「筆王ZERO」の競合製品「筆まめ」を販売するクレオのコンシューマサービス事業担当執行役員・大森俊樹氏は、「サポートやサービスについて、はがき作成ソフトの中では最も手厚い措置をとっているとの自負がある。そうした点から総合的にお客様自身の目で良いと思える製品を選んでもらえれば」と、現時点では対抗措置をとることは考えていないという姿勢だ。
MSはソフトとサービスの融合一方、マイクロソフトも「同様の戦略をとる予定はない」としている。ただし、同社では、「ウィンドウズの場合、バージョンアップは新しい機能を提供することが狙いとなるため、無料で提供することは難しい。ただ、定期的に提供しているウィンドウズアップデートは、セキュリティーのためと思われがちだが、それ以外のアップデートプログラムも含まれている。つまりデータアップデートに関していえば、当社も既に無料で提供していることになる」(同社広報部)とも説明する。
実は、マイクロソフトは今後取り組むべきテーマとして「ソフトウエア+サービス」という、ソフトとサービスの融合を掲げている。8月に開かれたオンラインサービス事業部の事業戦略説明会で、事業部長・笹本裕執行役常務が「今年開かれた全世界の社員総会でビル・ゲイツの前で、これまで並列に動いていたソフト事業とオンラインサービス事業の融合が強調された」と力説した。
つまり、ソースネクストのZERO戦略と異なる部分は多いものの、パッケージソフトといえどもオンラインサービスと何らかの連携を図り、ユーザーに付加価値を提供していこうという戦略を立てている。
これはシマンテック、クレオも同様。ここに挙げた以外にも、オンラインで付加サービスの提供を計画するソフトメーカーは多く、これまでのように、単にパッケージを売るだけで完了、というメーカーは少なくなっているのが現実だ。
こうした状況を踏まえると、ソフトを選ぶ際には、価格、メーカーとしての信頼性などとともに、「購入後、どんなオンラインサービスを受けられるのか」という選択肢も考慮する時代になったといえそうだ。(フリーライター・三浦優子/2007年8月24日発売「YOMIURI PC」2007年10月号から)