奈良県田原本(たわらもと)町の医師(48)方で昨年6月、妻子3人が焼死した放火殺人事件を巡り、長男(17)の供述調書を引用した単行本の著者宅などを奈良地検などが秘密漏示容疑で捜索したのを受け、栃木県佐野市立図書館は15日、本の貸し出しと閲覧を中止した。
京都府や山形県の公立図書館でも貸し出しなどを行っていなかったことが分かった。専門家からは「事実上の検閲に当たる」と指摘する声が出ている。
単行本は、フリージャーナリストの草薙(くさなぎ)厚子さんの「僕はパパを殺すことに決めた」(講談社)。佐野市立図書館は15日午後、書棚から撤去した。亀山武男館長は「社会問題となり、司法的な検討が行われている中、結論が出るまでは貸し出しをしないほうがいいと判断した」と話す。
京都府亀岡市立図書館中央館は、7月に東京法務局が草薙さんと講談社に被害の拡大防止などを求める勧告をしたため、本を購入したものの書棚に並べるのをやめ、閲覧と貸し出しをしていない。山形県河北町立中央図書館は出版直後の報道を受け、6月から書棚に並べず、貸し出しをやめた。
図書館が出版物を閲覧中止などにした例としては、1997年に神戸市の連続小学生殺傷事件で医療少年院送致となった少年の顔写真を掲載した写真週刊誌「フォーカス」と「週刊新潮」、98年にこの少年の検事調書とされる文書を掲載した月刊誌「文芸春秋」、2004年に田中真紀子衆院議員の長女の私生活に関する記事を掲載した「週刊文春」がある。