整理回収機構(東京都千代田区)の常務執行役員(57)が2004〜05年、債務者の不動産会社前社長(55)と2度にわたり、海外へのグループ旅行に同行していたことがわかった。
前社長は旅行直後に同機構から111億円の連帯保証債務の支払いを免除されたが、常務は前社長側に知人を介して、この交渉にあたった弁護士を推薦していた。常務の行為は、利害関係者との親密な交際を禁じた倫理規程に抵触する可能性があり、同機構は調査を始めた。
この常務は弁護士資格を持ち、企業再生本部を担当している。1999〜04年に同機構の顧問弁護士を務めた後、役員に就任した。
関係者によると、常務と旅行していたのは、静岡県内にあった不動産会社の前社長。2人は、共通の知人である経営コンサルタントの会社が主催した04年9月の中国旅行と、05年9月のモロッコ旅行に、ほかの5、6人と参加した。
いずれも旅費は約50万円で、常務は自分で負担していた。2人はほかにもゴルフや飲食で2、3回、顔を合わせていたという。
この前社長は94年に親族から不動産会社の経営を引き継いだ際、横浜市内の不動産開発などで、旧住宅金融専門会社(旧住専)から受けた数百億円の融資を個人で連帯保証した。債権は同機構に引き継がれ、05年時点で不動産会社の債務は120億円、前社長の連帯保証分はこのうち111億3900万円に上っていた。
常務は最初の旅行の後、経営コンサルタントから同機構側との交渉の進め方を相談され、知人の弁護士を推薦。前社長は05年春から、この弁護士を代理人に立てて、同機構と連帯保証債務の減額を交渉していた。
同機構は、モロッコ旅行の翌月の同年10月、前社長には主だった資産や収入がないとして、4000万円を支払わせることで111億円の連帯保証債務の支払いを免除する合意書を交わした。不動産会社に対する債権120億円は、1000万円以下で大手金融会社に売却された。
常務は前社長と海外旅行したことを同機構に伝えていなかったが、同機構は、旅行の事実をつかんでいれば資産状況を再調査した可能性もあったとしている。
常務は、同機構に対し、前社長から債務について相談を受けたことを認め、「整理回収機構と真正面から話し合った方がいいと話しただけ」と述べたという。これについて、同機構は「債務免除を決めたのは、常務の担当とは違う部署だが、常務の行為に問題がなかったかどうか調査している」と話している。
常務は、読売新聞の取材に対し「整理回収機構にすべて話してある」、前社長は「常務とは特に親密な間柄ではない」と回答した。