記事登録
2007年09月04日(火) 03時08分

<医療事故>検事が現場学ぶ研修制度本格化毎日新聞

 医療事故を巡る刑事事件の捜査や公判に役立てようと、検事が大学病院に出向いて医療現場を学ぶ研修制度が本格化している。一昨年から始まった試みだが、今年は研修生を大幅に増員し、7月上旬、全国から検事20人が二つの大学病院での研修に参加した。法務・検察幹部は「医療現場の感覚を取り入れて真相の解明に生かしたい」と期待を寄せる。【安高晋、田村彰子】
 法務省刑事局などによると、検事の医療研修は05年6月に初めて東京医科歯科大であり、8人が参加。06年10月にも同大学で2回目が実施され、10人が参加している。今年は順天堂大学が加わり、2大学で計20人が手術部や外来診療現場を見学、輸血業務や薬剤業務の講義も受けた。医師らの症例検討会にも出席し、看護師、薬剤師も交えた座談会での意見交換会も行われた。
 参加者からは「実際に医療現場を見て、医師や看護師の立場が実感できてよかった」「捜査や公判でも生きる有意義な研修になった」との声が聞かれたという。一方、病院側も「捜査機関の医療への理解を深める機会」ととらえている。東京医科歯科大医学部付属病院の坂本徹病院長は「医療にかかわる捜査が机上の空論にならないよう、現場を実際に見て知ってほしい」と来年以降も積極的に協力していく姿勢。
 ある法務・検察幹部は「検察は、限られた時間と手段の中で取られた医療措置についてきちんと事件化にふさわしいかどうか見極められるようにしなければならない。研修を通して、医療現場の実情を少しでも知るべきだ」と話しており、来年以降も引き続き研修を実施するという。
 ◇医療事故は増加傾向
 元福岡高検検事長の飯田英男弁護士の調査によると、医療事故の刑事事件は99〜04年で79件。戦後、99年までの判明分は137件で、近年増加傾向だ。だが専門性が高い医療事故の事件化は、医療関係者から疑問視する声が出たり、無罪判決が出る例もある。
 99年に東京都内で男児が綿あめの割りばしをのどに突き刺して死亡した事故では、業務上過失致死罪に問われた医師が「治療しても延命の可能性が極めて低かった」などとして06年3月に無罪判決を言い渡され、検察側が控訴している。
 04年に福島県内の病院で産婦人科医が出産直後の女性から胎盤をはぎ取った際、大量出血で死亡させたとして同罪などで起訴された事件では、日本産科婦人科学会などが「結果の重大性のみに基づいて刑事責任が問われるのであれば、必要な治療を回避する動きを招きかねない」と問題提起している。
 一方、厚生労働省は07年4月、医療行為中の患者の死亡の原因を調べ、再発防止に役立てようと専門的な調査組織の設立を目指し、検討会を発足させている。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070904-00000013-mai-soci