司法制度改革の核とされる新司法試験への信頼を揺るがす事態だ。抜本的な再発防止策を講じる必要がある。
法務省が、慶応大法科大学院の教授を、新司法試験の出題と採点を行う「考査委員」から解任した。
教授は、5月に実施された今年度の試験前に、試験問題と類似したテーマを学生に教えていた。
法務省は「問題そのものの漏えいは確認できなかった」としている。そうだとしても、漏えいに極めて近い、軽率な行為だった。解任したのは当然だろう。
新司法試験は、昨年度から始まった。法科大学院の修了者に受験資格が与えられる。法科大学院では、弁護士事務所での実習など、実務教育を重視し、即戦力となる法律家を養成している。
新司法試験の考査委員は、約150人に上る。法曹資格を持つ法務省職員と裁判官、弁護士が半数で、残りを法律学の学者が務めている。
解任された教授は、行政法が専門で、司法試験で全員に課すことになっている「論文」問題を作成した。その後、試験までの間に、自分の教え子らを集めて、勉強会を7回開き、論文問題に類似したテーマの解答指導などをした。
背景には、2004年にスタートした法科大学院間の競争がある。
当初、法科大学院の開設は、40校ほどの予想だったが、現時点で、74もの大学が法科大学院を設けている。少子化が進む中、学校経営の観点から、学生を確保するために、各大学が競って開設に走った結果だ。
新司法試験の合格者が多ければ、評価が高まり、学生も集まる。問題の教授も「合格者数を維持したかった」と、勉強会を開いた理由を語っている。
文部科学省と法務省は、すべての法科大学院と考査委員を対象に、勉強会の開催状況などの調査を始めた。来月中にも結果をまとめるという。勉強会でどのような指導が行われていたか、徹底した実態把握が必要だ。
現在の制度では、学者を含め、すべての考査委員が分担して問題作成と採点を行っている。法務省は、実務に忙しい裁判官や弁護士だけで、問題作成、採点をするのは現実的に難しいとしている。
しかし、学者が大学院生を教える一方で、問題も作成、採点するシステムは、やはり変えるべきだろう。
米国では、専門機関が、問題作成を担い、ロースクールの教員は、出題内容を知り得ない仕組みになっている。参考にしてはどうか。