中国各地で拉致された子供たちがれんが工場などで過酷な労働を強いられていた実態が判明し、山西、河南両省の公安当局は省内にあるれんが工場など1万カ所以上の一斉捜索を開始した。18日までに子供や知的障害者を含む約600人を保護、工場経営者や拉致実行者ら約170人を拘束した。同様に拉致された被害者は1000人を超えるとみられており、公安当局はさらに捜索を進めている。
山西省洪洞県で5月27日、れんが工場から保護され、警察署の前に立つ労働者たち=ロイター 摘発されたれんが工場内にある細長いかまど。拉致された子供らが、ここから高温のれんがを運び出していた=17日、山西省洪洞県広勝寺で国営新華社通信などによると、拉致グループは、鄭州市など大都市のターミナル駅周辺で未成年や職を探す労働者らに「仕事がある」などと誘い、拉致していた。被害者は400元(約6000円)〜500元で工場に売り渡されていた。
被害者はわずかな食事を与えられただけで、厳重な監視下で早朝から深夜まで15時間以上も無償で働かされていた。12歳の少年や70歳の高齢者も含まれていた。全身にやけどを負っている被害者も多い。
親たちが自力で我が子を工場から救出した様子を地元テレビ局が放映したり、子供が失跡した父母約400人がネットを通じて救出を呼びかけたりしたことで問題が顕在化。長期間事態を見過ごしていた当局の姿勢に批判も出ている。
●「仕事遅い」殴打、体中やけど
「現代の奴隷工場」——。一斉摘発の端緒となった洪洞県広勝寺のれんが工場を、内情を知る関係者はこう形容していた。ここで3カ月近く働かされていた河南省の男性(20)とその父親(43)が、朝日新聞記者に拉致や過酷な労働の実態を語った。
調理学校を卒業した男性は3月7日深夜、鄭州市で料理店の面接を終え、駅付近の長距離電話がかけられる店で休んでいた。見知らぬ男3人が近づき、「何の仕事ができる」と聞いてきた。男性が「調理師の資格がある」と言うと、男たちは「ちょうどいい。レストランを経営しているから働かないか」と誘った。
男性は誘いに応じ、ワゴン車に乗った。勧められた飲料水を飲むと、強い眠気に襲われた。睡眠薬が入っていたらしい。翌日午後に目をさますと、れんが工場にいた。
山に囲まれ、れんがの搬出に使われる細い道が唯一の出入り口。経営者宅があり、出入りを監視していた。経営者は村の共産党書記の息子だった。12〜60歳の約30人が働かされていた。男6人と犬6匹が常時監視していた。
朝5時から深夜1時まで平均16時間以上働かされた。100度以上もあるかまどの内部に入り、焼き上がった高温のれんがを薄い手袋をはめただけで運び出した。仕事が遅いと棒で殴られ、体中にやけどを負った。
食事は塩をふっただけの葉物野菜とおかゆ。就寝時間になると、窓がふさがれた粗末な小屋に押し込まれて施錠され、薄い布団にくるまって床に寝た。風呂はなかった。
3月8日夜、父親は公安局に捜索願を出した。テレビや新聞に尋ね人の広告も出した。広告を見た男性から「息子が誘拐されて山西省の工場で働かされたが、自力で逃げ帰った」と連絡を受けた。父親は5回にわたり同省を訪れ、買い付け業者を装って200以上のれんが工場を訪れたが、消息はつかめなかった。
不安が募る中、5月29日、突然息子から電話があった。公安当局の摘発で救出され、病院にいた。父親は全身の力が抜け、泣いた。久しぶりに会った息子はげっそりとやせ、全身やけどやあざだらけ。感情が抜けたように無表情だった。
拉致された男性は「なぜ簡単にだまされたのか。両親に迷惑をかけてしまった」と自分を責める。父親は「救出が遅れたら息子は死んでいたかもしれない。こんなことは絶対に許されない」。
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