「もしもし、おれ○○。トイレでケータイ落としちゃってさ。新しいケータイにして、番号変わったからよろしくね。それでね、この前クルマぶつけちゃって、修理代金を相手に払わなくちゃいけないんだ。だから至急30万円を送ってくれない?」
息子を騙るこんな電話が、母親のAさんにかかってきた。ディスプレーに表示された見知らぬ携帯番号に戸惑いつつも話を信じたAさん。しかし、やはり不審に思って詳しく問いただしたところ、電話は一方的に切れた。「振り込め詐欺」だったのだ。ケータイの番号が変わったからといって電話をかける振り込め詐欺が増えてきている。
振り込み制限10万円をあざ笑う、芝居・バイク便の利用振り込め詐欺の被害は続いている。警察庁の発表によれば、平成18年の振り込め詐欺(恐喝)の被害額は約250億円。今年の1月から4月の4か月間だけでも4000件以上、60億円を越える被害が出ている。
振り込め詐欺の防止対策も兼ねて、今年1月から銀行ATMでの振り込み金額が10万円までに制限された。これで被害は減ると期待されていたが、思ったほどの効果は出ていないようだ。その理由は、犯人の手口がどんどん巧妙になっているからだ。
例えば銀行ATMの振り込み額制限を回避するために、同じ銀行間での口座振替制度を使わせる。口座振替であれば、振込みのような10万円の制限がないからだ。口座振替の手続きは面倒だが、犯人が電話で指示する形で数十万円のお金を振り替えさせている。
また「事故の示談のために今すぐ現場にお金が必要」と言って、バイク便で現金を届けさせる手口も登場している。こんな手口にひっかかるのか? と不思議だが、事故だと聞くとパニックになってしまい、不審に思わずに送ってしまうようだ。
今年の春には、「税金の還付」を騙った振り込め詐欺が頻発した。国税局や税務署員を装って「税金を還付するのでコンビニのATMで手続きしてほしい」と電話をかける。そして手数料や口座確認のためと称して、お金を騙し取る手口だ。確定申告のタイミングを狙ったもので、全国で被害が出ている。
思わず笑ってしまう手口もある。劇団のように複数の人間を使って小芝居を打つ方法だ。
まず会社の経理担当者と称する女性から「息子さんいらっしゃいますか?」と電話が来るが、不在だとわかると何も言わずに切れる。そして少したってから上司の部長役から「実は息子さんが会社の金を使い込んでいて、その処理のために外で話し合っている」と電話が来て、途中で息子が「ゴメン…」と電話口で泣いてしまうというストーリーだ。
誰が台本を書いているのか知らないが、三文芝居のひどいものだ。しかし最初に経理担当者と称する女性から電話をかけさせて、被害者に「息子が何か起こしたのだろうか?」と思わせるところがミソ。偶然にもお金にだらしがない息子だった場合、信じてしまう母親もいるだろう。このように相手の心理に付け込むような手口を使ってきている。
警察が振り込め詐欺の電話をネット公開では実際の振り込め詐欺の電話は、どんなものなのだろうか。鳥取県警では、犯人が実際にかけてきた電話の音声ファイルをサイト(http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/seian/koreisagi/hurikome_onsei/hurikomesagi.htm)で公開している。
これを聞くとわかるが、犯人は警察官を装って「息子さんが事故を起こした」「示談にしたほうがよい」などと言っている。警察官がそんな電話をかけることはあり得ないのだから、冷静になって聞けば騙されないだろう。それでも騙されてしまうのは、電話を受けた人がパニックになってしまうからだ。パニックにさせるのが犯人の手口だといえるだろう。
また犯人はマスコミで話題になった事例を、巧みに詐欺に取り入れる。個人情報保護法がスタートした直後には「あなたの個人情報が流れている。削除費用が必要だから払い込め」。電話のユニバーサルサービス制度が始まった時期には「ユニバーサル制度のために新たに負担が発生するので払い込め」などと、その時期に話題になったニュースと取り込んでいる。被害者が「ああ、そんなニュース聞いたなあ」と思わせるのが目的で、そこから心理的にプレッシャーをかけてお金を振り込ませるのである。
これらの振り込め詐欺にひっかかるのは、多くが高齢者だ。特にケータイを初めて持ったという高齢者がひっかかりやすく、充分に注意する必要がある。
電話で急にお金を振り込ませるなどという事態は、まず起こるはずがない。だからお金を要求する電話は、すべて詐欺だと考えていい。あなたのご両親にも「こんな詐欺が増えているから注意してね」と、一度説明しておきたい。
http://www.yomiuri.co.jp/net/security/goshinjyutsu/20070604nt0e.htm?from=os1