「事故の芽」は全国の遊園地に潜んでいた。業界の安全意識の希薄さを示す結果である。
大阪府吹田市の遊園地「エキスポランド」のジェットコースター脱線事故を受け、国土交通省は、全国のコースターの緊急点検結果を発表した。
ずさんな点検の横行に驚く。
日本工業規格(JIS)検査基準では車軸については、超音波や磁気などで亀裂を調べる「探傷試験」を年1回以上、実施するよう規定されている。
エキスポランドでは、JIS基準を知らずに、独自に探傷試験の年1回実施を定めていた。だが、何度も先送りし、国家資格を持つ検査員が24人いながら、車軸の金属疲労を見落としていた。
他の遊園地も実態は変わらない。
全国139か所のコースター306基のうち、設置以来一度も実施していなかった72基を含め、4割近い119基は探傷試験を1年以上行っていなかった。国交省は、安全が確認できるまで運転中止を求めた。亀裂が見つかるなど、安全に問題のある7基には是正を指示した。
大半の遊園地は「JISの規定を知らなかった」という。知っていても「支障がない」と無視していた。
JIS基準に従わない所が多いのは、定期検査の具体的な方法や内容を法令で義務づけていないためだ。手抜き検査があっても営業停止などの罰則はない。
遊戯施設を建築基準法上の「工作物」として扱うようにした1959年の法改正で想定したのは、メリーゴーラウンドなど緩やかな動きの施設だ。時代遅れの規制になっているのではないか。
国交省や自治体の担当部局には、ジェットコースターの構造を熟知した職員は乏しい。検査会社や専門の研究者も少ない。まずは遊園地が安全を確保する責任を果たさねばならないが、チェックする体制の構築が急務だ。
国交省は、探傷試験の義務化を検討しているが、それだけでは足りない。
早急に取り組むべき対策の一つは、事故情報の共有化だ。
国交省の外郭団体「日本建築設備・昇降機センター」は毎年、遊戯施設の事故を集計している。過去30年間に全国で132件の事故が発生、死者26人、負傷者255人に上った。事故は増加傾向にあり、機器の重大なトラブルや整備不良もあった。だが、センターは遊園地や自治体に情報を提供していなかった。
公共交通を参考に、人為ミスや故障が大事故につながらないよう、異常時の自動停止機能などの制御機能を導入する設計基準作りも必要だ。