情報の電子化が進む中で、メディアが経営基盤をより強くしようとしているのだろう。
金融情報サービスの売上高で世界3位のカナダ・トムソンが名門ロイター通信を傘下に持つ2位の英ロイター・グループを約2兆円で買収する。
株式相場や企業の決算、新製品などの情報を即時に、銀行、証券会社などに届ける金融情報サービスは、金融のグローバル化で需要が急増している。
2、3位連合で誕生する「トムソン・ロイター」の売上高は、1位の米ブルームバーグを上回る。巨大化をテコに、事業規模の一層の拡大を図る方針だ。
一方、世界のメディア王マードック氏が率いる米ニューズ・コーポレーションは、有力経済紙ウォール・ストリート・ジャーナルを持つ米ダウ・ジョーンズに買収を提案している。
マードック氏は「金融情報はカネを稼げる」と語ったという。経済情報に強いメディアを傘下に収め、グループの質を向上させる戦略なのだろう。
欧米のメディアには、上場している企業が少なくない。その場合、「報道の独立」を株主から守るため、創業家などに特殊株を割り当てるのが通例だ。
ロイター・グループは、1984年の上場に際して、有識者による「発起人会社」を作り、同社に敵対的買収などを拒否できる黄金株を持たせた。今回、同社が買収に同意したのは、トムソンが黄金株の維持を認めたためとされる。
ダウには、創業家が一般株主の10倍の議決権を持つ複数議決権株がある。マードック氏も創業家の一角を切り崩さないと、買収を成功に導けない。
宅配制度が発達していない欧米では、有力紙が相次いで、厳しい経営に追い込まれている。インターネットにあふれる無料のニュースに押されて読者が減り、広告もネットに奪われているからだ。
経営が悪化した新聞社では、一般株主が特殊株制度そのものを批判し始めている。「報道の独立」を守る仕組みも、経営の安定があってのことだ。
金融情報については、メディアが情報の受け手から直接、代金を徴収するシステムが確立している。これを他の分野にどう広げるか、が問われる。
ネット上では、個人や企業が発信する玉石混交の情報が飛び交っている。メディアには、正確さと分かりやすさで、絶大な信頼を集めることが欠かせない。
ロイター・グループの売上高の9割は金融関連だが、1割は一般ニュースだ。経営統合でニュース部門が疎(おろそ)かにされては、1851年創業の看板が泣く。