“コピー天国”からの脱却へ向け、中国は、知的財産権の保護を徹底すべきだ。
米国政府が、知的財産権の保護策が不十分だとして、中国を世界貿易機関(WTO)に提訴した。当然の措置だろう。
米国の重要な産業である映画や音楽を違法コピーしたDVDやCDが、中国で不法に製造・販売されている。世界の模倣品の年間取引額65兆円の大半が中国製とされる。
中国は2001年にWTOに加盟した後、「知的財産権の保護政策」を打ち出し、海賊版を摘発したり、刑事罰を強化したりしてきた。
だが、実際には地方政府の取り締まりが甘く、違法コピーが野放し状態だ。法軽視の中国社会の体質が見て取れる。提訴は、米国の強い不満を表している。
ブッシュ政権は、米中戦略経済対話を昨年末に発足させ、中国との通商問題を融和路線で解決しようとしてきた。しかし、対中貿易赤字の拡大や、人民元改革の遅れにいら立つ米議会や産業界には、保護主義が強まっている。
米国政府は2月に、中国の輸出補助金を不当としてWTO提訴し、中国の紙製品への相殺関税も3月に仮決定した。今回の提訴も含め、対中姿勢をより厳しく修正しているといえる。
「知的財産権侵害」の提訴を受け、米中は2国間協議に入り、60日以内に解決できない場合、WTOの紛争処理小委員会が設置される。小委員会が「違反」と認定すれば、中国に改善を勧告する。
米国が国内法による一方的な制裁に走らず、WTOでの解決を図ろうとしたのは、そこに自制が働いたのだろう。WTOの紛争処理手続きに期待したい。
日本も、アニメやゲームなどの違法コピーやニセ自動車など、中国製の模倣品で被害を受けている。日本企業の損失は年間9兆円を超えるという。
日本は欧州連合(EU)とともに、米中のWTO協議にオブザーバーとして参加することを検討中だ。中国社会に知財保護の精神が浸透するよう、日本も中国に改善を促していくべきだ。
一方で、日本は、中国に知財保護のための官民合同ミッションを派遣し、模倣品防止の法整備や、人材育成などで助言してきた。こうした地道な支援も、併せて続けることが大切だ。
中国製の模倣品がアジアなどを経由して世界に拡散しないように、各国は、水際での取り締まりも強化すべきだ。
中国は高成長を続け、貿易黒字も拡大している。多角的貿易体制を支える大きな責任に見合った行動が問われる。