盗難にあった自動車に対する車両保険金の支払いを巡り、盗難が実際に起きたかどうかを立証する責任が、保険会社と契約者のどちらにあるかが争われた訴訟の上告審判決が17日、最高裁第3小法廷であった。
上田豊三裁判長は「盗難に契約者が関与したものかどうかの立証責任は、支払いを拒否する保険会社側にある」との初判断を示した。その上で、保険会社側勝訴の2審判決を破棄し、審理を福岡高裁に差し戻した。
自動車の盗難は2000年代に急増。中には盗難を装った保険金詐欺が少なくなく、「自作自演」を疑う保険会社側が、保険金の支払いを拒否してトラブルになることが多かった。
下級審では、自作自演でないことの立証を契約者側に求め、支払い拒否を認めた例もあったが、その立証責任を保険会社側に負わせた今回の判決は、保険金支払いの実務に影響を与えそうだ。
訴訟は、福岡市の男性が起こした。判決によると、男性は海外出張中の2002年10月、自宅マンションの駐車場から車を盗まれたとして、保険金450万円の支払いをあいおい損害保険(東京)に求めたが、支払いを拒否された。保険会社側は、車には「イモビライザー」と呼ばれる最新の盗難防止装置がついていたのに、短時間で盗まれていることなどから、男性が犯人と共謀していた疑いが強いと主張。一方、男性側はマスターキーを車内に置いていたなどと反論していた。
判決は「契約者は、第三者が持ち去ったという外形的事実さえ証明出来れば、自分が盗難に関与していなかったことまで立証する必要はない」とし、契約者側の立証責任を軽減した。
1審・福岡地裁は請求を認めたが、2審は「契約者側は、本当に盗まれたかどうかの立証が不十分だ」として、請求を棄却した。
車両保険を巡っては、最高裁が昨年、水没事故や破損事故などのケースで、「事故原因の立証責任は保険会社側にある」との判断を示している。