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2007年04月09日(月) 00時12分

石原氏「変身」低頭、逆風封じ 「ぶれ」響いた浅野氏朝日新聞

 勝ったのは自民党でもなく、民主党でもなく、「現職」だった。8日投開票された第16回統一地方選挙の前半戦。13都道県知事選に立った9人の現職は、全員当選した。政党の力量よりも、現職を交代させる無党派層のうねりが起きるほど争点が明確にならなかったことが、勝敗を決した。最も注目された首都決戦の東京都知事選で、3選を果たした石原慎太郎氏の戦いも、それを表している。

 8日夜、3選を決めた会見で、石原氏に「石原節」が帰ってきた。

 選挙戦の当初、逆風にさらされた石原氏と、無党派の風に乗ろうとした浅野史郎氏との接戦が予想された東京都知事選。その結末は大差だった。

 「ボディーブローが効いている」。告示直前、石原氏は弱気な言葉を漏らした。高額な海外出張費や四男の重用問題が「都政の私物化」と批判を浴びていたからだ。

 石原氏を代えるのか代えないのか。それが争点になるかに見えた。

 だが、石原氏に投票した無党派有権者からは、こんな声が目立った。

 「最近、石原さんは謙虚になった」

 「知事を代えなければならない理由がない」

 過去2回、石原氏は出馬の度にサプライズの公約を用意した。「米軍横田基地の全面返還」であり、「新銀行設立」だった。それが今回、サプライズは公約の中身ではなく、「謝る姿」だった。

 街頭演説で「反省している」と頭を下げる。歯にきぬ着せぬ言動を見慣れた都民に、それが新鮮に映る。「石原か反石原か」が争点化する芽を、摘みとる形になった。

 逆風が凪(な)ぐのを感じたと陣営幹部は言う。「最終日まで失言さえしなければ勝てると確信した」

 浅野氏が「五輪招致は最優先課題なのか」と問うと、石原氏は「最重要ではない」とかわした。浅野氏が築地市場移転に反対すると、「専門家の意見を聞く」と態度を軟化させた。「争点つぶし」も奏功した。

 一方、朝日新聞が実施した出口調査では、投票基準に「候補者の資質・魅力」を選んだ人が「公約や政策」を上回った。「資質・魅力」と答えた人の6割以上が石原氏に投票した。

 ディーゼル車の排ガス規制などで国に先駆け、政府に物言う姿勢を貫く石原氏。「指導力に期待する」との有権者の声も多い。自民・公明支持層を手堅く固めながら、自民党の推薦は辞退して無党派層もつなぎとめた。

 一方の浅野氏。「やはり現職の壁は厚かった」。それが敗戦の弁だったが、最大の敗因は「分かりにくさ」にあった。

 民主党からの立候補打診を断ったのに、途中から政党幹部らの応援を解禁した。それは窮して泣きついたような印象を与えた。民主支持層からも石原氏に流れた。浅野氏が立つことで不戦敗は免れた民主党だったが、かえって支持層を固めきれなかった姿をさらした。

 浅野氏はマニフェストを掲げたが、五輪招致や築地移転問題で当初は明確に反対を打ち出さなかった。まず都民の声を聞く姿勢を強調し、「ワンマン」と批判される石原氏とのイメージの対比を際立たせようとした。

 浅野氏は終盤になって対立軸を鮮明にする。しかし、「石原か反石原か」を争点に押し上げる好機はもう去っていた。

 無党派層は6〜7割といわれる東京で、今回の出口調査では、投票者に占める無党派層の割合は3割程度だ。石原氏への不満層の「受け皿」にはなったが、「反石原」への投票行動まで引き寄せられなかった。

 浅野氏はゼネコン汚職による出直し知事選で宮城県知事になった。ある民主党幹部は、その成功体験に引きずられすぎたと分析する。「都政は伏魔殿だが、汚職が発覚したわけではない。クリーンを売り物にすれば当選できた宮城とは違った」

 石原氏は2期8年の実績を強調するだけでよかった。しかも、都知事選では現職が新顔に敗れたことがない。その前例を覆すほどの強い風は、吹かなかった。

http://www.asahi.com/politics/update/0409/TKY200704080134.html