[映画盗撮防止]「海賊版を封じる法整備が不可欠」
映画が盗まれる——。そんな被害が後を絶たない。
映画館に客として入り、客席にビデオカメラと録音装置を据えて、上映中の映像と音声を記録する。集団で来て、公然と盗撮する例もあるらしい。
盗撮のほとんどが犯罪を目的としている。到底、許されることではない。
だが、意外なことに、取り締まる法律はない。著作権法では、自分だけが使うための録画・録音は「私的使用目的」となり、直ちに違法とはならない。
今国会に、映画の盗撮を防止する法案を議員立法で提出する機運が高まっている。自民党がまとめた法案では、最高で懲役10年か罰金1000万円を科す、という厳しい罰則も盛り込んでいる。早急に成立を目指すべきだ。
“盗撮者”は、海賊版のDVDに加工して、繁華街の路上やインターネット経由で売りさばく。暴力団の資金源になっているとも言われる。話題作ともなれば、封切りの翌日には、もう海賊版が出回るという。
海賊版DVDの販売は、著作権法に違反するれっきとした犯罪だ。摘発例も多い。しかし、盗撮が野放しでは、元栓が開き放しなのと変わらない。
海賊版DVDなどによる被害は、2005年度に800億円超という試算もある。国内の映画興行収入は、年間2000億円程度だ。映画産業の発展も損ないかねない。
海外でも、映画盗撮を取り締まる法律を制定する国が広がっている。盗撮されたデータは、インターネットを経由して世界を巡る。日本発の盗撮映画を世界に氾濫(はんらん)させてはならない。
ただ、盗撮防止法で歯止めをかけられるのは、封切り後間もない映画の海賊版作りだけだ。現実には、映画DVDやテレビ映像、音楽CDなどの海賊版、違法コピーまで、インターネットの世界ではむしろ堂々と流通している。
デジタル技術の進歩で、映像や音声データの複製作りが容易になった。インターネットも高速になった。違法コピーのコピー、そのコピー……と、どんどん増殖してしまう。
著作権法では、海賊版や違法コピーの利用者を取り締まれないことも、こうした無法状態がまかり通る一因だ。このため、文化庁の文化審議会などでは、違法品と知った上での利用は規制対象とすべきだ、という意見も出始めている。
映画も、音楽もインターネット経由で手軽に買える時代だ。その便利さと創作者の権利をどう両立させるか。著作権法改正など法制度の整備も急ぎたい。