高校3年間でどんな文学作品を学ぶことになるのか。戦後の高校の国語教科書をリスト化している私立富士見丘高(横浜市)の阿武(あんの)泉教諭が、今回の検定に合格した2・3年生用の「現代文」と、昨年合格し今春から使われる1年生用の「国語総合」を調べた。
その結果、吉行淳之介、島尾敏雄、開高健の3人は、今春の新入生から教科書で学ぶことがなくなった。4年前の検定では谷崎潤一郎と安岡章太郎の作品が消えた。
学習指導要領の改訂ごとに、1期(教科書の使用年度は49〜51年度)から現在の7期(04年度〜)に分けてみると、谷崎は2期(52〜62年度)で「細雪」「春琴抄」などが教科書21点に収録されたのがピーク。6期(94〜03年度)は「少将滋幹の母」が1点に入っただけだった。
「第三の新人」と呼ばれた安岡も5期(82〜93年度)の12点をピークに今の教科書にはない。「戦後派」と呼ばれた大岡昇平、「第三の新人」の吉行淳之介、「内向の世代」の小川国夫らも90年代に入って激減した。
最盛期には25点で扱われた川端康成も同じ傾向だが、さすがノーベル賞作家。今も6点に残る。井伏鱒二はピークの45点が、今は7点。広島の原爆を題材にした「黒い雨」は姿を消した。
対照的に元気なのが、山田詠美、よしもとばなな、江国香織といった昭和の終わりから平成にかけて登場した女性たちだ。よしもとは6期から収録され、今回の検定では10点に載った。
夏目漱石の「こころ」や森鴎外の「舞姫」、戦時中に発表された中島敦の「山月記」は、今回も多くの教科書が収録。戦後に登場した作家では、原民喜や林京子などの戦争文学や、安部公房の「赤い繭」や志賀直哉の「城の崎にて」など、特定作品に人気が集まる傾向が出てきた。
阿武教諭は「昭和に活躍した作家は、定番教材と今の作家に挟まれて、今後も淘汰(とうた)が進むだろう。今の子には時代背景が理解しにくくなってきているようだ」と話す。
●マザー・テレサからマータイさんへ
米国の黒人解放運動の先駆者ローザ・パークスや、インドのマザー・テレサ。英語では、かつての定番が、新しい話題に押され気味だ。
各社こぞって取り上げるのが、04年にノーベル平和賞を受賞したケニアのワンガリ・マータイさん。受賞スピーチや、植林活動を紹介する読み物が目立つ。
その一つ、文英堂は、マザー・テレサや喜劇王のチャプリンをここ数年で減らした。「同じ題材を何年も使うと先生も飽きてくる」からだ。別の会社の担当者は「90年代までは、面白さより道徳的価値観から読ませていた部分もある」とみる。
大修館書店も、日本や世界の新しい動きを採り入れるのが、編集方針だ。貧しい人たちに無担保融資する「グラミン銀行」を創設し、ノーベル平和賞を昨年受けたムハマド・ユヌスさんは、今回の検定前から英語IIに載せている。
英語教科書の執筆者でもある筑波大付属駒場中高の平原麻子教諭は「時代の流れ。『今』を語るのに必要な英語を知っておくことも大事」と受け止める。
音楽IIでは、教育芸術社の教科書に文部省唱歌の「うみ」と「シャボン玉」「夕焼け小焼け」の計3曲が新たに掲載された。いずれも小学校の1、2年で学んでいる歌だ。
02年施行の学習指導要領から「日本のよき音楽文化を世代を超えて歌い継ぐようにする」という言葉が入ったことを受け、「一番歌いやすく、親しみやすい歌」として選んだ。高校生なので、3部合唱でも歌えるよう楽譜に工夫をこらした。
今春から使われる同社の音楽Iでは、同じ狙いで「ふるさと」を載せた。