「はだしのゲン」のタイ語訳を出したチャタナコンさん
出版にこぎつけたのは、チャタナコン・オンカシンさん(49)。長崎県諫早市の長崎ウエスレヤン短大でタイ語などを教えていた97年、広島に旅した折に「ゲン」を見つけ、読んでみた。勇敢で思慮深い主人公や被爆の実相に強く揺さぶられ、翻訳を思い立った。作者の中沢啓治さん(68)に会って了解をもらった。
帰国後、堅い本の出版で定評のあるマティチョン社と交渉し、去年6月から刊行が始まった。4巻まではチャタナコンさんが英語版から訳し、残りはタマサート大3年生のウォラジャラス・マンチュナコンさん(20)らが日本語版から訳した。
チャタナコンさんは「この漫画は戦争の悲惨さを伝えるだけではない。アジアでは戦時中の日本と言えば、侵略の面ばかりが語られるが、多くの日本人が戦争に反対し、国内では被害者だったことも分かってもらえる」と話している。
中沢さんは「多くの国で読んでもらえることは作者冥利(みょうり)に尽きる。アジアでは、日本の戦争を違った角度から見る機会になって欲しい」と話す。