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2007年03月31日(土) 00時00分

北電は変われるのか朝日新聞

 北陸電力は本当に変わるのだろうか——。志賀原発1号機の臨界事故隠しで、同社が30日に国や県、志賀町に報告した社内調査には隠蔽(いんぺい)の原因として、「言いたいことが言えない」「言っても無視される」という社内風土が指摘されたが、責任の所在については明確にされないままだった。さらに、原子力、水力、火力の各発電所でデータ改ざんなどが新たに発覚。経営陣はこの日も、謝罪の言葉を繰り返した。

 =調査報告書=
 「隠蔽原因は社内風土」責任の所在 明確にせず

 松波孝之副社長ら幹部4人が出席した同社石川支店での会見は3時間45分にも及んだ。事故の原因について15日の会見では手順書の間違いと説明していたが、この日は手順書に誤りはなく、中央制御室からの連絡ミスと訂正した。

 報告書などによると、事故後、発電所長ら14人が緊急時対策室に参集。多くの出席者は事故の重大さを認識し、発電課の担当者から「臨界ではないか」と意見も出たが、「2号機の着工を2カ月後に控えている」などを理由に隠蔽(いんぺい)を決定した。調査委員会に対し、当時の所長は「詳細な記憶はないが、隠蔽しようという意思を出した」と話しているという。

 午前4時53分から約30分間、発電所と本店(富山市)、石川支店(金沢市)、東京支社間でテレビ会議が開かれ、発電所側が「ノイズによる誤信号」「出力が上がっておらず、連絡対象ではない」と報告。本支店、支社から異論はなく会議は終了しており、「本店の関与は認められなかった」「経営層も事実の認識はなく、関与はなかった」と結論づけた。

 会見で経営陣の責任については、「抜本的な再発防止策を策定し4月13日までに報告する」とだけ答え、隠蔽に関与した職員や当時と現在の経営陣の責任、処遇については「まだ分からない」と繰り返した。

 一方、当時の所長代理だった現常務が隠蔽に関与していたことについて、松波副社長は「大変申し訳ない」と謝罪した。この常務は19日から休暇届を出しており、現在は出社していないという。

 聞き取り調査は16〜25日、経営層、社員、OB、メーカー関係者約230人に対して実施した。報告書では、中性子量の突出を示す計測器の記録紙に「点検」と書き込んだり、臨界の異常事態を表す警報記録の原本を切り取った関与者は不明とした。

     *    *    *

 =北電、21件の改ざん公表=
  志賀原発、協定超す海水取水

 北陸電力がこの日公表した過去の不正は、志賀原発1号機の臨界事故隠しを含め原子力、水力、火力の各発電所で、法令や保安規定に違反するデータ改ざんなど21件。このうち新たに明らかにされたのは14件に上る。

 影響の大きさでA〜Dに分けると、臨界事故隠しはA。新たな14件のうちBは3件。志賀原発1号機の冷却用に取水する海水データでは、運転開始時から今年3月まで、安全協定の規定を超えて取水していた。協定では毎秒40トン以下だが、平均で1%多く取水。さらに循環水ポンプの圧力も検査に合格できるように数値を改ざん。「営業運転を目前に控え、建設工程を優先」「改ざんが習慣化」が原因としている。

 富山火力発電所4号機では98、00年の定期点検でボイラー管の肉厚を測定した際、必要な厚さに満たない管があったのに、それぞれ約2年間にわたって運転していた。担当者の計算間違いが原因だという。富山市の四津屋発電所2号水車でも92年の改修工事の際、発電機計測回路を不正に変更し、検査に合格していた。

■■臨界事故を隠した99年6月18日の経過■■

午前      制御棒の急速挿入試験で制御棒駆動機構の弁を順次閉止
  2時17分 制御棒3本が引き抜け始める
     18分 原子炉が臨界状態になる
          原子炉自動停止信号が発生。制御棒が緊急挿入できず、12回の警報
     33分 手動による弁の操作で制御棒が全挿入され、事態が収束
   3時ごろ 所長、所長代理、次長ら14人が緊急招集
         緊急時対策室で所長らが隠蔽を決定
   4時ごろ 本店、東京支社、石川支店にテレビ会議で「電気信号の乱れ」と虚偽報告
         中性子量の突出を示す計測器の記録紙に「点検」と書き込んで改ざん
  8時30分 異常なしを装った「引継日誌」を作成。次長らが押印
  10時    定時点検で訪れた国の専門官に異常なしを伝える

■■志賀原発1号機の臨界事故隠しをめぐる動き■■

93年7月30日 営業運転を始める
98年9月 9日 1号機運転差し止め訴訟の控訴棄却。住民は上告
99年4月29日 第5回定期点検を開始
    6月14日 非常用ディーゼル発電機の部品にひび割れ見つかる
      18日 臨界事故
    8月20日 定期点検を終え営業運転を再開
      31日 住民らが2号機建設差し止め訴訟を起こす
     9月2日 2号機着工
      30日 茨城県東海村の民間ウラン加工施設で作業員2人が死亡する臨界事故
00年12月19日 1号機運転差し止め訴訟の上告棄却。住民側敗訴確定
06年12月19日 原子力安全・保安院の指示で発電設備点検委員会を設置
07年 3月15日 「臨界事故隠しがあった」と発表
       16日 国の指示を受けて原子炉を停止。総点検へ
       30日 原子力安全・保安院に報告書を提出

http://mytown.asahi.com/ishikawa/news.php?k_id=18000000703310004