ルーマニア人拉致被害者が姉ドイナさんであると信じ、パソコン上の写真を見つめるガブリエル・ブンベアさん=ルーマニア南部クライオバで
コンピューター技術者のブンベアさんは、首都ブカレストの西約200キロのクライオバに住む。先月、北朝鮮に脱走した元米兵のジェームズ・ドレスノクさんらを撮影した英記録映画「クロッシング・ザ・ライン」の一部を放映した米報道番組「60ミニッツ」を見た。作品に登場したガブリエルと名乗るドレスノクさんの息子を見た瞬間、「目も鼻も口もすべてが姉とそっくりで、言葉を失った」という。
ドレスノクさんについては、曽我さんや夫のチャールズ・ジェンキンスさんが05年秋、ルーマニア人拉致被害者のドイナという女性と結婚し、ドイナさんは97年1月にがんで亡くなったと証言している。
ドイナ・ブンベアさんは50年、ブカレスト生まれ。彫刻や絵画を学び、イタリア人と結婚して祖国を離れた。離婚後もローマで活躍。78年9月、「日本で画廊を開けるというすばらしい契約をした」と弾んだ声で実家に連絡してきたのを最後に、消息を絶った。
当時は独裁者チャウシェスク政権下。家族は大使館などを通じてしか情報収集ができず、消息がつかめないまま84年に葬儀を行った。
17歳上のドイナさんから非常にかわいがられたというブンベアさんは「姉は実の息子に私と同じ名前を付けたのだろう。亡くなった姉には会えないが、ガブリエルにはどうしても会いたい」と涙ながらに訴えた。
ルーマニア外務省は北朝鮮側に事実関係の確認を求めたが、「回答がなかった」という。ブンベアさんは「(日本の)拉致被害者家族会に入り、協力したい。ジェンキンスさんにも会いたい」と希望している。
日本の拉致被害者家族会の増元照明事務局長は「近く、ルーマニアに行ってご家族に会い、日本の集会にも招きたい」と話している。