井植家と三洋電機の動き
三洋電機の事業別売上高
突然にみえる井植社長の辞任。きっかけは、2月下旬に明らかになった過去の決算をめぐる不適切な会計処理だった。
2月27日、証券取引等監視委員会の指摘を受けた三洋は01年3月期から4期分の単体決算の自主訂正を決定。米ゴールドマン・サックス(GS)など金融機関側には「当時の副社長、井植社長の引責辞任は避けられない」という空気が広がっていた。
三洋は06年3月に3000億円の増資を行った結果、出資した三井住友銀行、GS、大和証券SMBCの3金融機関に議決権の約67%(普通株換算)を握られている。さらに金融機関は「株主らに責任ある説明をできるかが経営の根底」(奥正之・三井住友銀行頭取)などと、井植社長への批判を強めていた。
野中ともよ前会長に続き、井植社長と井植敏最高顧問の退任によって、今後の三洋のかじ取りは、創業家から金融機関へと完全に移ることになる。
焦点は、デジタルカメラや携帯電話事業など、井植社長のこだわりが強かった事業の扱いだ。GSと大和SMBCは両事業の売却を模索した経緯がある。早期の業績回復のため、これら不採算事業を切り捨てる可能性がある。主力の充電池事業の売却も検討されており、実質的な「解体」への道を歩み始めたともいえる。
新社長となる佐野精一郎執行役員(54)は人事・労務畑一筋の「生え抜き」。リストラの専門家とされる半面、事業部門を率いた経験はほとんどなく、強いリーダーシップを発揮できるかどうかは未知数だ。
敏雅氏の辞任で、三洋電機は47年の創業以来初めて、会長・社長に創業家出身者がいない状態となる。
だが、「井植商店」と呼ばれた三洋と創業家との密接な関係は残る。井植家の資産管理会社の孫会社にあたるサンフードサービス(兵庫県淡路市)の全売上高は全国の三洋事業所向けの給食事業が占める。敏氏個人が所有する企業が長年、三洋から厚遇されてきた格好で、創業家側と三洋との密接な取引関係は少なくない。主導権を握った金融機関側が、この深い関係をどう断ち切るのか、容易ではなさそうだ。