◆手紙届ける努力しよう◆
「ハッピーに生きようぜ」
3月23日、西南部小4年2組にとって最後の授業の日。そして、担任の金森俊朗(60)にとって教師生活38年の最後の授業の日を迎えた。
昨年4月に金森が子どもたちに見せた白山麓(ろく)から持ってきた土。ジョウビタキの死骸(しがい)や枯れ葉がバクテリアによってすっかり分解され、代わりに姿すらなかった幼木が30センチにも成長した。
教室も随分変わった。子どもたちが調べ、記した模造紙がずらりと張り巡らされた。給食の授業で知った「いのち」を食べていること。稲作を通じて学んだ田んぼの力、そして僕らの命について考えた「命のリレー」。
でも、一番変わったのは子どもたちだ。
この日はみんなで準備したお別れ会。黒板には子どもたちが書いた「金森学級のお別れ会」の言葉と、クラスのキーワードとも言える「手紙」と「友」の文字。
最後の日も、子どもたちが仲間や金森に書いてきた手紙を読んで伝える。
「手紙ノートに書いて伝えることってすごい。待っているだけでは何も起きないって学びました」(昂平)
クラスで声が一番小さい美鈴が伝えようとすると、教室がしんと静かになる。みんな美鈴の声をキャッチするためだ。4月には誰が話そうがざわめいていたのに。子どもたちは友をしっかりと見るようになった。
美鈴も必死で伝える。「きっと私、大人になってもおばあちゃんになっても、金森先生や優しくしてくれたみんなのこと忘れない」
お別れ会には保護者も参加した。6年生でもないのに。しほりの母、祥子(36)は「子どもと一緒に調べたから、私たちも引き込まれてしまった」。子どもだけでなく、親もクラスに来るゲストとも学び合うのが金森学級の特徴だ。
一緒にヨモギ団子を作り、一緒に食べた後は、この1年、何度も歌ってきた「ぼく」を歌う。
♪3億の中のひとつがぼくになった♪60億人の中でぼくはひとり♪45億年の中でぼくの今がある
4年2組が学んできた「いのち」が込められた歌だ。しほりは手紙にこうつづった。「もし自殺なんてこと考えたなら、あの大きな胎児の心音を思い出し生きる力をよみがえらせます」
金森は前夜、色紙に子どもたちへのメッセージを書いた。真ん中に大きく「ハッピーに生きようぜ」。そして子どもたちの名前から1字をとって、添えた金森からの願い。
それを一人ひとりに言葉をかけて手渡していく。陽奈には「心に太陽を」、藤女には「折れない藤のように強く」、琴乃には「美しい音色をひびかせろ琴のように」、実穂には「美しい花咲かせ実をいっぱいに」、崇悟には「崇(けだか)く生きろ」、そして桃加には「ほっぺに桃色だした笑顔」。
子どもたちも伝える。班ごとに分かれての出し物では、最後の国語の授業で使った「鈴」の続編を考えて披露したり、田植えから稲刈り、どしゃぶり授業やイカダなど月ごとに振り返ったり。
そして迎えた最後の最後、金森は黒板に大きく「手紙」と書いた。
4月から「友に伝えよう」「友の声をキャッチしよう」と話しかけてきた金森が子どもたちに贈る最後のメッセージだ。
「ずいぶんいろんな手紙を読んできました。(足が不自由なことを伝えた)明星から始まった仲間への手紙、(足のない)相馬さんや(筋ジストロフィーの)渡辺さんの懸命な姿。その姿が心に住み着いた時も、命のリレーだと学んだこと。《よもうとさえすれば手紙なのです。いつでもあなたに届けられる手紙があるのです》。そして、届ける努力をして下さい」
(敬称略)
=「つながり合う」は浅見和生が担当しました。連載「いのちを学ぶ」は今回で終わります。4月に番外編を掲載予定です。
http://mytown.asahi.com/ishikawa/news.php?k_id=18000000703240001