富士通の単体での赤字転落は、海外子会社の株式評価損約3500億円を特別損失に計上するためだ。子会社の業績がすでに反映されている連結業績予想は変更しないが、単体の赤字額はIT(情報技術)バブル崩壊に伴う02年3月期の2651億円を上回って過去最大となる。
主因となったのは3500億円を出資する英国の情報サービス子会社「富士通サービス」株での2900億円の減損処理だ。同子会社の業績はいまは好調だが、過去の業績不振や年金債務の負債計上が重荷となって純資産が大幅に減少した。他の米英子会社でも株式評価損を計上する。
日立の当期赤字は従来見通しの550億円から2000億円に膨らむ。ハードディスク駆動装置を作る米子会社の業績不振で株式評価損を計上する。
富士通と日立が実施した「減損処理」は、子会社株式の価値が取得簿価の5割以下になった場合に評価損を計上する。ただ、監査法人が事業計画などを評価して「将来回復の見込みがある」と認めれば処理の先送りも認められる。判断は監査法人に委ねられている。
その裁量範囲は、会計不信の高まりを受けて大きく狭まった。07年3月期決算の監査が山場を迎える直前の2月、日興コーディアルグループや三洋電機などの監査先企業で不正会計問題が相次いだみすず監査法人(旧中央青山監査法人)が事業継続を断念。さらに今月、政府が閣議決定した公認会計士法改正案に監査法人への課徴金制度が盛り込まれ、「客観的に外部に説明できない判断はできない」(公認会計士)とのムードが高まった。
とりわけ将来予測で判断する減損処理では、「監査法人の判断が正しかったかどうかが数年後には明らかになる。最も保守的な判断で臨まざるを得なくなった」と青山学院大学大学院の八田進二教授は指摘する。
会計に詳しいコンサルタントも「かつては、業績が回復するという結論が先にある利益計画が多くみられたが、甘い監査が会計士自身の首を絞めることに気づき始めた」と背景を説明する。今後も同様の評価損計上が続く可能性がありそうだ。