夫婦2人を殺害して財布を奪ったとして逮捕されたのは、被害者宅の2軒隣に住んでいた顔見知りの男だった。児玉署捜査本部の調べに対し、岩森稔容疑者(61)は殺害を認めており、金目当ての犯行だったとみられる。静かな町を襲った凶悪事件で身近な「隣人」が逮捕されたことに、住民からは安堵(あんど)と驚きの声が交錯した。
◇
犯行当日の午後、岩森容疑者の白い車が田端さん方近くの駐車場で目撃されていたことなどが逮捕の決め手になった。同容疑者は調べに対し、財布を奪った点は否認しているという。
しかし、捜査本部は「フミ子さんを針金で縛り金を要求した」という供述や、武司さんが財布を置いていた1階居間の物色や、財布が見あたらないことから、強盗目的は明らか、とみている。
借金を断られてから2人を殺害するまでの経緯について詳細な供述はしていないが、2人を執拗(しつよう)に襲っており、衝動的な犯行ではなく、明確な殺意があったとみている。
また、室内にあった土足痕と、窃盗容疑で逮捕された際に履いていた靴底が酷似していた。靴の内側に血がついており、捜査本部は、岩森容疑者は靴を脱いで田端さん方に入り夫婦を殺害し、その後、靴を履いて室内を物色したとみている。
捜査本部によると、岩森容疑者は運送の仕事をしていたが、狭山市内の勤務先が昨年2月に倒産。その後、別の運送会社で仕事を続けたが、同社によると、昨年末ごろから行方がわからなくなっていたという。
犯行後は、仕事で訪れるなどして土地勘があった山梨県内に逃亡し、車中泊していた。今月5日に甲府市内で捜査員に発見された際の所持金は11円だったという。
◇周囲に「金がない」岩森容疑者
岩森容疑者は、運送関係の仕事をしていたが、周囲に「金がない」などと漏らし、トラブルも少なくなかったという。
「仕事を紹介する」。事件の6日前、岩森容疑者が田端さん宅の近所に住む男性(60)の家を訪れた。空っぽの小銭入れを見せながら「食べるのにも困っている」とこぼしたという。男性が夕食をだすと、間もなく岩森容疑者はいなくなり、直後に財布が盗まれたことに気づいた。同容疑者は今月5日、男性宅での窃盗容疑で逮捕された。
男性は「逮捕で安心したが、知っている人だけに複雑な気持ちだ。そんなに追い込まれていたのか」と話した。
別の20代の男性は、容疑者の元で働いていたが、給料の不払いが続き1年ほどで辞めたという。「『もうちょっと待ってくれ』と繰り返すだけだった」と振り返る。
また、65歳の男性は約3年前、容疑者が「会社が倒産して大変なんだ」と話すのを耳にした。昨年は「財布をなくし、金がないので貸してほしい」と言われて金を貸したという。「近所にまで金を借りに来るなんてよほど困っていたのか」と話した。
19日夕、警察から逮捕の知らせを受けた田端さんの長女から、親類の男性(55)宅に電話があったという。親類の男性は「涙声だったが、ホッとしたんじゃないか」と話す。
地区の自治会長(58)は「事件後、みな雨戸を閉めて不安な日々を過ごしていた。この自治会の人間だったのが残念だ」。被害者と容疑者宅の間に住む主婦(42)は「近所の人にひどいことをするなんて。誰も信じられなくなる」と不安げだった。
http://mytown.asahi.com/saitama/news.php?k_id=11000000703200001