「財布を落としても定期券は落とすな、と言われるぐらいに深刻」
2月定例県議会の一般質問。民主党の軍司俊紀議員は地元・印西市など千葉ニュータウンを走る北総線が抱える問題について、こう訴えた。
北総線の運賃は日本一とも言われ、沿線住民からは値下げを求める声が根強い。千葉ニュータウン中央—東京・日本橋間の6カ月通勤定期代は24万3450円に上る。
北総線から京成線、都営地下鉄線と3社にまたがるためでもあるが、中でも北総線の運賃の高さが際だっている。
「北総線の運賃値下げを実現する会」。船橋、印西、白井、印旛、本埜、の沿線5市村の住民ら約25人が中心になって活動する団体だ。
その団体は01年6月、通学定期の割引率アップを最優先の課題に取り組むことを確認した。通学定期は大手私鉄だと、普通運賃より7、8割安く設定される。一方、北総線は、運賃が高いのに加え、割引率も約6割にとどまっていたからだ。
団体メンバーの1人である元大手火災保険会社役員吉本幸弘さん(69)=本埜村=が原案を練り、県知事あてに要望書を出した。地元市議・村議らにも粘り強く訴えた結果、印西、白井、本埜、印旛の4市村の議会で請願が採択された。
04年7月の印西市長選。現職の引退や合併問題などがあり、新顔5氏による選挙となった。うち印西市議からくら替え立候補した山崎山洋市長が、団体の提案を基に、通学定期の割引率引き上げを公約に加えた。
当初は、選挙目当てかもしれないなどと真意を測りかねた。そのため団体は、山崎氏の支援団体として「色が付く」ことを避けるためにも、選挙に関与しなかった。
山崎氏は9199票を得て初当選。その直後から検討に入り、通学定期代の一部を05年度から5年間、市が負担する方針を固め、初年度分を05年度一般会計当初予算案に提案した。
各年度ごとの予算審議などを主張して、市議会予算委員会は市の提案を否決したものの、市側が折れたため、本会議では可決。通学定期補助が導入された。
それを契機に05年4月、白井、本埜、印旛の市村も同調し、補助制度が始まった。
助成後の通学定期券の割引率は実質、6割から7割に上がった。印西市の今年度の助成費は約1億2500万円。4市村だと約2億円にのぼる。
本埜村に住む近藤瑞枝さん(46)の県立高校1年の長男(16)は、印西牧の原駅から秋山駅(松戸市)まで北総線で通っている。
06年度の通学定期代は12万3330円。村から4万1100円の助成を受けることになる。近藤さんは「北総線の定期代は家計を圧迫している。それだけに助成は本当にありがたい」と話す。
団体の主張が具現化したとはいえ、吉本さんは納得していない。「(政治家は)形だけ話を聞き、伝えてはくれる。でも問題自体に踏み込まない。本質を研究し、向き合って欲しい」
住民活動は続ける。「訴えていれば、住民の間に波紋が広がることがある。そうすれば政治は放っておけなくなる」。政治を動かす市民活動の意義をこう見いだしている。(神元敦司)
◇
それぞれの思いを政治の場に伝えたいと立ち上がった県民がいる。これに政治家はどう応えたのか。県民は政の温(ぬく)もりを感じているのか。統一地方選を前に、様々な現場で検証してみた。
http://mytown.asahi.com/chiba/news.php?k_id=12000000703200003