——監査役制度は機能しているか。
「監査役の仕事は一義的に、不正防止を目的とした企業の体制『内部統制』が適正かどうかをチェックすることだ。取締役会の議論を聞くだけでなく、そこで決定された事項が実施される、現場の調査も必要だ。起こった不祥事を摘発するのではなく、未然に防止するのが役目だ」
「不二家の場合、監査役が製造現場に足を運んでいれば、品質基準がないがしろにされていたのは分かったはず。怠慢だったといわれても仕方がない。一方、問題が起きていない企業は、内部統制がしっかりしているか、監査役がうまく監視しているといえるのではないか」
■社長も聞く耳を
——「名誉ポスト」「お飾り」とも皮肉られる監査役が、取締役に問題点を直言するのはむずかしいのではないか。
「株主保護を目的としたコーポレートガバナンス(企業統治)の議論が高まる中、どちらかというと距離を置いていた社長と監査役が、ここ数年は近づいている。有能な社長なら社内の情報を知りたがる。監査役の情報を退けたら、次から情報は上がってこない。社長自らが耳を傾けるという姿勢こそが経営の要諦(ようてい)だ。でなければ、裸の王様になる」
——取締役と監査役がコミュニケーションを欠いた事例は。
「西武鉄道のケースがいい例だ。有価証券報告書の虚偽記載については、実態を把握していた監査役が取締役会で指摘している。だが、西武グループを当時率いていた堤義明氏の問題意識は低かった。監査役の指摘を受けて即座に対処していれば、あれほどの事件にはならなかっただろう」
——不正防止のために「内部統制」の構築が法律で義務づけられた。
「粉飾決算を防ぐための財務に関する内部統制は、経営者自身がチェック体制を構築してそれが適正に運営されているかどうかを評価する。次に、会計士が経営者の評価した内部統制を前提に、決算数字が適正かどうかをみる。監査役の役割は会計士と情報を交換し、決算数字に影響を与える業務運営について問題がないかどうかをチェックすること。お互いの役割が明確化されると同時に、責任も重くなる」
■安易な就任ダメ
——監査役の責任はますます重くなるのか。
「法定外の添加物を混入した食品を販売したミスタードーナツの訴訟では、運営会社のダスキンの監査役の責任も認定された。決算数字をチェックする公認会計士に対して司法や行政の処罰が厳しくなっているように、不祥事を未然防止できなかった場合、監査役の責任も今後、厳しく問われるようになる。裏返せば、監査役の任務に対する期待の表れ。それが嫌だったら(監査役を)安易に引き受けないほうがいい」
——どうした監査役制度が望ましいか。
「弁護士や会計士などと同様、最も大事なのは使命感だ。どんなに制度を強化しても、それだけで監視体制が強まるわけではない。結局は、運用の善しあしで決まる。不祥事が起きた場合、それを反省し効果的な運用を再検討することが重要となる」
ささお・けいぞう 京大経済学部卒。1954年旭化成入社。監査役、常務取締役を経て95年、副社長。98年に副社長を退任、再び監査役を経た後、現職である旭有機材工業の監査役に。2004年10月、日本監査役協会会長に就任した。和歌山県出身。75歳。
<メモ>監査役 取締役らの職務執行や会計が適正かどうかをチェックする株式会社の機関。株主総会で選ばれる。多くの大会社(資本金5億円以上または負債200億円以上)は監査役会を設置しており、監査報告を作成する。監査役会の監査役は3人以上で、その過半数は社外監査役で構成される。任務としては取締役会に出席し必要な場合は意見を述べることができる。また、会社が自社の取締役を裁判で訴える場合、取締役同士のなれ合いを防ぐため監査役が会社の代表となる。日本監査役協会には約5300社が加盟し、企業経営や監査役制度の在り方などを研究している。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/kakushin/20070318/mng_____kakushin000.shtml