月面反射通信に使われている32メートルパラボラアンテナ=茨城県高萩市のKDDI茨城衛星通信センター、日本アマチュア無線連盟提供
月面反射通信では、出した電波が交信相手に届き、そこから応答が戻るまでに、5秒もかかる。
月面で反射する電波は7%程度。戻る電波も、1兆分の1のさらに1兆分の1以下の強さしかないという。地上の工場や自動車、宇宙空間の雑音も邪魔になる。電波を捕まえても、風呂場の会話のような残響があって、意味のある交信をするのは難しい。
同センターは、日本初のテレビ衛星中継の基地。63年の運用実験開始3日後、「ケネディ大統領暗殺」のニュース映像が飛び込み、日本中に発信した。閉局は国際電話や映像送信に使う衛星通信を山口衛星通信センターに集約するため。うわさを聞いたアマチュア無線家がKDDIと交渉して実現した。
月の追尾や機材の積み込みについて協議し、2月に突貫の改造工事をした。同月23日、試験電波を出した。電波が月と往復するのに2.5秒。その微妙な時間の後、はっきりした信号が返ってくると歓声が上がった。特別局「8N1EME」の免許が交付され、さっそく世界に向けて交信を呼びかけた。オーストラリアやオランダなどの計13局から応答があった。
月面反射通信は、第2次世界大戦後に米軍が手がけた。だが月が上空にある半日しか使えず、通常は利用されていない。同センターのパラボラは大出力の送信機や感度のいいアンテナを兼ねるので、相手の無線局は普通のアマチュア無線の設備でも十分だ。プロジェクトの代表を務める渡辺美千明さん(50)は「完成度の高い設備を使うことができ、夢のようだ」と話している。
http://www.asahi.com/national/update/0317/TKY200703170100.html