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2007年03月17日(土) 00時00分

「賢治の童話」を音楽劇に 朝日新聞

  宮沢賢治の紡ぎ出す言葉は音楽のようだ。そんな発想から、17と18の両日、川崎市麻生区の新百合(ゆり)21ホールで、童話「ポラーノの広場」が音楽劇になる。

(二階堂友紀)

  童話では、広場は伝説的な祝祭の場として登場する。宮沢作品によく出てくる架空の理想郷、イーハトーブの野原の真ん中にあると伝えられているが、どこにあるのかよく分からない。昔語りにしか聞いたことしかない若者たちが、夜に聞こえてきた音楽に誘われ、広場を探し始める。

  だが、やっと見つけた広場は選挙のために酒を振る舞う場所だった。若者たちは、みんなが元気になれるような新しいポラーノの広場を築こうと誓い合う——。

 劇でも基本的なストーリーはそのままだ。演出を担当する劇団「Ort—d.d」の倉迫康史(こう・じ)さん(37)がポイントにしたのは「セリフと演奏と歌と体で音楽性をどう表現するか」。宮沢作品の奥には音楽がある、と感じていたからだった。

  本番を控えて行われた通し稽古(げいこ)でも、言葉というより音楽があふれていた。「メー」「シーッ」「カッカッ」。セリフも独特のリズムを刻む。例えば「よく・分からないなあ」。

  倉迫さんが最近、目指しているイメージは「声を楽器に、日本語を音楽に」だという。「美しい響きが、初めて役者の言葉を観客へと届け、心を揺さぶる瞬間を引き起こす」と考える。

  倉迫さんは大学を卒業後、趣味だった演劇の世界に飛び込んだ。最初は自分でオリジナルの脚本を書いていたが、次第に三島由紀夫や太宰治などの文学作品を扱うようになった。

  「時代を超えて残っているものには強さがある。言葉の美しさ、その裏腹のこわさ。それを生かすのに挑む仕事こそが面白いと思うようになった」と倉迫さん。

  今回の舞台は10月に「川崎市アートセンター」が開館するのを記念して企画された。倉迫さんはセンターの指定管理者「川崎市文化財団グループ」をつくるNPO「アートネットワーク・ジャパン」の、レジデント・アーティストを務めている。

  「明日への活力を与えてくれる場を再生しようとする物語。センターの誕生にふさわしいと思って、この話を選んだ」

  劇終盤のセリフに、その思いが重なって響く。「そこへ夜行って歌えば、またそこで風を吸えば、もう元気がついてあしたの仕事中からだいっぱい勢(いきおい)がよくて面白いような、そういうポラーノの広場をぼくらはみんなでこさえよう」

  17日は午後6時、18日は同2時と6時から。1時間前から受け付けを始め、整理券の番号順に入場できる。一般2千円、中学生以下千円。

http://mytown.asahi.com/kanagawa/news.php?k_id=15000000703170003