【許容資金がカギ】
日興の上場維持は、シティにとって「良いニュース」と「気がかりなニュース」の両面がある。「良いニュース」は、有力顧客の資産流出や取引解消、自主廃業した旧山一証券のように人材が大量流出する懸念が薄れ、企業価値の大幅な下落は回避されたこと。
ただこれは、TOBの成立が前提。「気がかりなニュース」は、上場維持により、TOBが成立しない可能性も出てきたことだ。
シティはTOB価格を1株1350円に設定しているが、これは「上場廃止を織り込んだ価格」(アナリスト)とみられている。
そのTOB価格に対して、日興の上位株主の1位から4位を占め、計25%超を保有する海外の投資ファンド4社は、「1350円は安すぎる。2000円の価値はある」とこの価格でのTOBに反対を表明。上場維持が決まり、こうした要求がさらに勢いを増すのは確実な情勢だ。
これら4ファンド以外の機関投資家や個人株主も上場が維持されれば、あわててシティのTOBに応じる必要性はなくなってしまう。
シティは、日興株保有者が売却したくなるような魅力的なTOB価格を提示しないと、目標にしている日興株の過半数取得は難しくなりそうだ。
過半数取得に必要な資金は当初、約6000億円だったが、今後は大幅な積み増しが必要になってくる可能性は高い。そうなった場合に、「日本での基盤作りを重視しているシティが、どこまで資金を出せるかがカギになる。いくら金に糸目を付けないといっても、シティにも株主がおり、むちゃな“買い物”はできない」(金融業界関係者)との声もある。
【みずほも焦点に】
一方の日興としては、上場維持、廃止にかかわらずシティと包括提携を結んでいる。このため、上場が維持されることになったから単独で生き残ります、とは言い出せない立場で、12日の記者会見でも「シティとの包括提携の基本方針は変わらない」(桑島正治社長)と強調した。
ただ、「シティが日興株50%を取得できなかった場合、両社の提携は解消されないまでも、力関係に変化が生じる可能性がある」(市場関係者)との声も聞かれる。
シティに次ぐ日興の安定株主であるみずほコーポレート銀行(4.89%保有)の対応も焦点だ。もともとイケイケドンドンで日興支援を最初にブチ上げていたのは、同行だった。それが上場廃止観測でしぼんでいった経緯があるだけに、上場維持で再び息を吹き返してくる可能性もある。
同行は、日興の受け皿としてみずほ証券と新光証券の合併を発表するなどしていた。
シティが日興の最短距離にいるのは間違いないが、少なくとも3大証券の一角を安く買いたたくという“勝ちパターンのシナリオ”は崩れることになりそうだ。
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ZAKZAK 2007/03/13