事件は先月5日。いつもどおり自宅を出た会社員は、午前7時6分発、西武拝島線の急行電車に乗った。立ったまま右手をつり革に、左手は肩掛けカバンのひもを胸の位置で握っていたという。徐々に混雑する車内。下車予定の高田馬場駅に到着する数分前、いきなり左手をつかまれた。
「触っただろう」
目の前には制服姿の女子高生(17)。身に覚えのない会社員は否定するが、女子高生はさらに「触っただろう」と問い詰めた。やりとりを2、3度繰り返すうちに到着。2人はホームで言い合いに。ほどなく駅員が駆け付け、一緒に駅前の交番へ。会社員は、警視庁戸塚署に強制わいせつ容疑で逮捕された。
女子高生側は、斜め後ろの会社員が左手で尻を触り、パンティーに手を入れたと主張。「粘着シートで手指を調べたが、スカートやパンティーの繊維片は検出されなかった」(捜査関係者)という。
まもなく同居する父親のもとに連絡が。「最初は振り込め詐欺かと思った」と父親。署では「容疑を否認している」と伝えられた。数日後の接見時、「やってない」と説明する息子を見て、「冤罪だと確信した」。
インターネットで情報収集を始め、「通常の痴漢裁判では被害女性の証言が終わるまでは保釈されないと知った。長い人は1年もかかることもある」と悲観的な現実を知った。参考になればと、痴漢冤罪裁判を描いた公開中の映画「それでもボクはやってない」(周防正行監督)も見た。そして、弁護士と話し合い、「証言があれば冤罪を証明できる」と目撃者探しを決意した。
「ビラを2000枚作り、先月14日から妻と息子の兄弟、親せきや知人と、動ける人に動いてもらってまいています。毎朝、息子が乗った電車と同じ時間の電車に乗り、乗客にも聞いて回っている。何度も声をかけてしまい、不愉快そうな顔をする人もいる」と、目撃者捜しに心血を注ぐ。
その甲斐あってか、これまでに4人の目撃者が名乗り出た。「3−4メートル離れた場所にいた人もいたが、『言い争いの声は聞いていない』と。女子高生がそこまでされて周囲の人が気付かないのはちょっと考えづらい」というが、会社員の左手の位置を見たという決定的な目撃証言はまだ得られてはいない。
会社員は23日、起訴され保釈請求も「証拠隠滅のおそれがある」として却下されたまま。ただ、接見禁止は解除された。「雑居房に入れられた息子は、私の前では落ち着いた様子だが、妻が接見に行くと涙を見せることがある」(父親)。
「勤務先は有罪となれば『懲戒解雇せざるを得ない』と言っている。一番確実なのは目撃者。みなさんの記憶が薄れているかもしれないが、見た人は覚えているはず。何とか捜したい。見つかるまで(ビラまきを)続けます」と、父親は、きょうも高田馬場駅に立ち続ける。
事件に関する情報は五反田法律事務所(鳥海準弁護士)TEL03・3447・1361まで。
ZAKZAK 2007/03/12