本拠地で初のオープン戦となるロッテ戦を前にした十日午前十一時。埼玉県所沢市のグッドウィルドームの開門で、西武の太田秀和オーナー代行は入場者を出迎えた。プロ野球ファンなら、その人物が誰なのかはすぐに分かった。ほとんどのスポーツ新聞がこの日、謝罪する姿を一面に掲載していた。
「太田、やめろ!」と罵声(ばせい)も飛んだが、太田オーナー代行は「頑張ってという声がほとんど。ファンはありがたい」と涙ぐんだ。
続けて選手たちに謝罪した。「過去のこととはいえ、この時期に発表したことを申し訳なく思う。キャンプで培ったものを発揮して日本一になってください」。エース松坂大輔投手がメジャーに移籍し、立て直しを目指すシーズン直前に重く暗い影を落とした。
一人の選手については、十二球団で「新人獲得で利益供与は一切しない」と申し合わせた「倫理行動宣言」(〇五年六月)後にも現金を渡していた。今後、日本プロ野球組織(NPB)から下される裁定では、今秋のドラフト参加禁止という厳罰が予想される。
「個人的な意見だが、しょうがないと思う。そのくらいの覚悟というか気持ちでいる」。現場を預かる伊東勤監督は、沈痛な表情で言った。
倫理行動宣言違反は明らかだが、太田オーナー代行が昨年八月にその事実を把握しながら公表せず、何の対処もしなかった点はより悪質だ。この核心部分について九日の会見では「私の怠慢。不徳の致すところ」と明らかにしなかったが、この日も「ノーコメント」を繰り返した。
今回の不祥事が、一球団の問題にとどまらず、現在議論が進められているドラフト制度の改革にも絡んで球界全体を巻き込むのは必至だ。
これまで十二球団の会議でも西武は一切この問題を報告しなかった。そのため、他の球団は「不正のうわさは聞かなくなった」とし、十二球団の意見はまとまった。十三日のプロ野球選手会(宮本慎也会長=ヤクルト)との協議を前に、「希望枠」を残すNPBの方向が決まった。
しかし、その前提が崩れた。不正の温床になると希望枠廃止を求めてきた選手会は、さらに強く撤廃を求める方針だ。前選手会長の古田敦也・ヤクルト監督は「球界に自浄能力がないことが証明された。ドラフトは完全ウエーバー制が望ましい」と強調した。
裏金問題では、「それを要求するアマ側にも問題がある」と指摘する球界関係者はいる。有力選手獲得の近道は、選手よりも指導者を含めた周囲を口説くのがスカウトの常識という声さえある。
どちら側にも不正が起こり得る仕組みは、すぐにでも撤廃すべきだ。
<メモ>希望枠 大学生・社会人などを対象とし、各球団がドラフト会議の前に1人だけ契約を締結できる制度。事実上、選手が球団を選ぶことができる。高校生は対象にできない。2005年から2年間の暫定措置として導入された。それまでは1球団2人までを獲得できる「自由獲得枠」として運用されていた。
完全ウエーバー制 成績が下位の球団から順に獲得したい選手を指名していく制度。過去2年間実施された大学生・社会人ドラフトの希望枠など、特別の方法をとらない。他球団との競合はなく、指名すれば独占交渉権を獲得できる。米大リーグで採用されており、各球団の戦力均衡を狙いとしている。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/kakushin/20070311/mng_____kakushin001.shtml