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2007年03月11日(日) 00時00分

大いなる違算 新庄市の財政(上)朝日新聞

∞「エコの街」夢のツケ

 「下を向くな」。1月末、高橋栄一郎市長は、助役を通じて、町幹部にそう告げた。来年度から始める予定だった生ごみ堆肥(たい・ひ)化事業の取りやめを決めた後のことだった。

●「生ごみ」延期

 市内1万3千世帯の協力で、家庭から出る生ごみを堆肥化し、農家に使ってもらう事業。環境に優しい街づくりで、活性化を目指そうという市の「バイオマスタウン構想」の主要な施策の一つだった。

 市長の言葉を聞いても、担当幹部はあきらめきれなかった。県の担当者と国に提出する書類をまとめ上げ、昨夏から市内で住民説明会を150回以上、開いてきた。いよいよ11月から事業化に踏み出すところまでこぎ着けたのだ。

 昨年末、予算編成過程で、事業を精査したところ、費用は当初より1億円上回ることが分かっていた。厳しい財政事情の中、これ以上の投資はできない。「市民の理解が得られない」。苦渋の決断をした高橋市長は「中止じゃないぞ、延期だ」と庁内で、精いっぱい強がってみせた。

●「第2の夕張」

 昨年秋、北海道夕張市が財政破綻(は・たん)したニュースが全国を駆け抜けた。新聞や雑誌は、財政指標の悪い自治体を回って、「第2の夕張」と騒ぎ立てた。収入に対する借金返済の割合を示す「実質公債費比率」が29・9%で、夕張より高い新庄に取材が殺到した。

 「借金漬け」「破綻寸前」などおどろおどろしい見出しが、週刊誌を飾り、テレビでは、アナウンサーが深刻な顔でリポートした。昨年の12月議会では「(報道を見た)市民、職員の心情はいかばかりか」「市は、希望を語る義務がある」と市議から、同情される始末だった。

 実質公債費比率は県内最悪、全国でもワースト6位。借金に当たる一般会計の市債残高は今年度末で、財政規模の1・3倍に当たる180億9400万円だ。人口は4万1千人。市面積の半分を森林が占め、4分の1が農地。都市部と違って、法人税が望めるわけもなく、市税は歳入の35%にすぎない。

●一筋の光明

 そんな中、バイオマス事業は市に差し込んだ一筋の光明だった。生ごみ堆肥化のほかに、原料作物の栽培とセットにした新燃料バイオエタノール事業もあり、全国から年に30〜50団体が視察に訪れた。農業振興と新エネルギー、廃棄物対策と環境の時代に先駆けた事業だった。

 だが、予算に占める人件費などの義務的経費の割合(経常収支比率)は05年度で99・5%。貯金に当たる基金を取り崩して何とか持ちこたえてきたが、ピークだった98年の12億3900万円から、今年度は2億3千万円ほどにまで急減した。

 必要経費を支払えば、ほかは何もできない。全国の自治体の視察どころか、破綻の街をリポートしようと、記者やテレビカメラが駆け回る現状に、環境問題など手を回せるはずもなかった。

 バイオタウン構想をまとめた荒沢宏二・市環境保全室長は言う。

 「市民も財政破綻を心配している。でも、これといって何もない新庄から、世界的課題の環境問題に取り組んでいることを示したい。生ごみの堆肥化事業は、より良くするため猶予の時間を与えられたと思うしかない」

 バイオマスタウン構想は2月末、市のホームページからひっそりと姿を消した。

    ◇

 新幹線の開通で街は活気づくはずだった。環境に優しい街づくりで、先端を走るはずだった。しかし、残ったのは借金だった。大きな「違算」を抱えた新庄は、どこへ向かうのか。

■県内自治体の実質公債費比率ワースト10
(単位%、03〜05年の3カ年平均、県まとめ)
(1)新庄市  29.9
(2)長井市  27.7
(3)金山町  23.0
(4)白鷹町  22.7
(5)南陽市  22.3
(6)川西町  22.0
(7)寒河江市 21.8
(8)高畠町  21.2
(9)村山市  20.9
(10)米沢市  20.8

http://mytown.asahi.com/yamagata/news.php?k_id=06000000703110005