法案が成立すれば、新制度は08年度から導入される。政府は当初、09年度ぐらいを予定していたが、菅総務相が「今の制度は時代の要請にこたえていない。夕張問題も出た」と急いだ結果だ。
05年度に実質収支が赤字だった自治体などは前年度から2団体増え、北海道、大阪府など28団体に。景気拡大で税収が増えた都市部に対し、地方は税収減で格差が拡大し、過疎地には財政運営の危機にさらされている自治体が多い。
新制度で採り入れるのが「健全化判断比率」という財政指標。粉飾とも言うべき赤字隠しをした夕張市は特殊な例だが、法案は健全化判断比率の公開を義務づけ、「隠しだて」の余地を可能な限り減らす。健全化判断比率を構成する四つの値のどれか一つでも「早期健全化基準」以上になったら黄信号状態。自治体は財政健全化計画をつくらなければならない。
総務省は同法成立後、1年かけて基準値を設定し、政令で定める段取りだ。初めて導入する概念だけに「手探り状態で、どういう値になるかは未定」(自治財政局)。全国知事会などは新制度の効用を認める一方、自治体の財政力の違いを理由に「画一的な指標・基準ではとらえられない面があり、必要に応じて差を設けることも考える必要がある」としている。
また、新制度には、すでに膨らんでしまった借金に対する具体的な「手当て」は見当たらない。赤信号にあたる「財政再生基準」以上になれば、条件付きで再生振替特例債の発行も認められるが、「ローンの借り換え」に過ぎず、根本的な解決策にはならない。
新制度には、企業に適用されるような破綻法制の創設は盛り込まれなかった。自治体の自己責任を求める竹中平蔵前総務相が熱意を示していたが、知事会などが「地方債の金利が上昇し、住民負担が増えるおそれがある」などと反対を表明。破綻した自治体の借金減免には、地方銀行なども慎重だった。
ただし、菅総務相は9日の記者会見で「(破綻法制は)大きな課題だ。(自治体が)緊張感を保つうえで十分に検討する必要がある。今回の法案には間に合わなかったが、3年以内につくる地方分権改革一括法につなげる」と語った。
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■自治体の財政健全化をめぐる動き
06年4月 竹中前総務相の私的懇談会が提言。借金減免を含む破綻(はたん)法制を数年以内に整備するよう求める
6月 夕張市が財政再建団体への移行を表明
7月 骨太の方針「再建法制等も適切に見直す」
12月 地方分権改革推進法が成立
総務省の研究会が最終報告。地方財政の新指標導入を盛り込むが、破綻法制については結論を出さず
07年1月 菅総務相の諮問機関「債務調整等に関する調査研究会」が議論を開始
3月 夕張市が財政再建団体入り
政府が地方公共団体財政健全化法案を国会提出