事故で長女、愛ちゃん(当時1歳)を失い、自らも重傷を負った筑井康隆さん(42)は、傍聴席最前列で愛ゃんの遺影を持って判決に耳を傾けた。
業務上過失致死傷罪に問われた半沢広高被告(43)の判決は、禁固2年10月、執行猶予5年。深見玲子裁判官は「交通規範意識は相当に低い」と指摘したが、「反省の態度を示している」と述べた。「判決で事件が終わったと思わず、出来る限りの謝罪を続けるように」と諭した。
筑井さんは「どういうことなんだろうね」と愛ちゃんの遺影に語りかけた。
筑井さんは判決後に記者会見し、「起こるべくして起きた事故なのに……」と言葉を詰まらせ、「(判決には)納得がいかない。愛にも説明できない」と肩を落とした。「家族が受けた苦しみは、こんな判決で済まされるわけがない。責任の所在は、電線を設置したセコムや市などにもあり、それに向けて戦っていく」と声を絞り出した。
判決が市やセコムの責任について触れなかったことについて、「公判で被告の弁護人が、『電線が低かった』と主張していたが……。刑事と民事は違うので仕方ない」と話すのがやっとだった。
筑井さんは午後、横浜地検で検事に「控訴して」と訴えた。地検から出てきた筑井さんは「現在の司法では、被害者は報われない」と複雑な胸の内をのぞかせた。
横浜地検の山舗弥一郎・次席検事は「判決で述べている量刑理由を検討して適切に対処したい」とコメントした。
被告の弁護人を務める石川達紘弁護士は「執行猶予は、市やセコムと過失が競合している点を考慮してもらった結果だと思う」と述べ、「悲惨な事故が起きたのは事実。これを機会に行政は、設置後の電線の高さを確認するなど公道上空の安全を確保する仕組みをつくるべき」と話した。
筑井さんが準備を進める民事訴訟は、市の高さの基準を確認しなかったセコムと、設置後の確認を怠った市の「不作為」が焦点となる。早ければ4月にも提訴するという。「管理責任があるのに、設置後の確認義務がないという市はおかしい」と話している。
◆電線の設置完了届を義務化 横浜市、現地確認も
横浜市道路局は、電線の設置完了届の提出を4月から設置者に義務づけ、原則として土木事務所が現場確認することを決めた。電線の高さが市の基準を満たしていることが分かる写真も出させる。
NTT東日本や東京電力など設置数が膨大なものは、いくつかを抽出して確認したり、写真でチェックしたりしていく。
これまで設置後に道路占用許可基準の高さ4・5メートル以上を満たしているか確認する規定がなかった。事故が起きた電線もチェックしておらず、高さが十分でなかったことが事故の一因になった。
一方、事故後の調査で、市内では1万7447本の基準より低い電線が見つかっている。今月末までに是正を求めているが、これまでに改善されたのは約3500本と2割にとどまり、改修は進んでいない。
所有者が分かっていない電線も2417本あり、最終的に所有者が不明のものは市が改修する。
この日の判決を、横浜市道路局の職員も傍聴した。判決では市の責任は言及されなかったが、貝沼貞夫管理課長は「設置後に確認しなかったことは責任を感じている。ルールを作り、二度と事故が起きないように対策を講じる」と話した。
筑井さんが判決後、市を相手取って民事訴訟を起こす考えを明らかにしたことについて、貝沼課長は「我々は何も言えない」としている。