戦後六十年を迎えた二年前、広島に原爆を投下した米爆撃機B29「エノラ・ゲイ」の同行機に搭乗していた米科学者と、広島の被爆者との対談を取材した時のこと。原爆投下の正当性を強調する米科学者と、「せめてひとこと、謝罪の言葉を」という被爆者の主張は平行線で、ホテルの一室は一触即発の雰囲気だった。そんな中、米科学者がいらいらした口調で言った。「なぜ皆、原爆投下ばかりを責めるのか。東京の空襲のことは言わないのに」。思わず、記者の立場を忘れて「そんなことはないから」と発言しそうになった。同時に、「東京大空襲はきちんと伝えられていない」と恥じ入った。
東京大空襲の六十二年を経ての提訴。街並みは復興しても、心の中で消えることがなかった犠牲者らの無念に、あらためて思いをはせる。 (増田恵美子)
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tko/20070310/lcl_____tko_____005.shtml