米国内で、従軍慰安婦問題をめぐる波紋の広がりが止まらない。ニューヨーク・タイムズ紙など主要紙が相次いで日本政府を批判する社説や記事を掲載しているほか、震源地の米下院でも日本に謝罪を求める決議案に対して支持が広がっているという。こうした状況に米国の知日派の間では危機感が広がっており、安倍政権に何らかの対応を求める声が出ている。
◆広がる波紋
8日付のニューヨーク・タイムズ紙は、1面に「日本の性の奴隷問題、『否定』で古傷が開く」と見出しのついた記事を載せた。中面に続く長いもので、安倍首相の強制性を否定する発言が元従軍慰安婦の怒りを改めてかっている様子を伝えた。同紙は6日にも、安倍発言を批判し、日本の国会に「率直な謝罪と十分な公的補償」を表明するよう求める社説を掲げたばかりだ。
ロサンゼルス・タイムズ紙も6日に「日本はこの恥から逃げることはできない」と題する大学教授の論文を掲載し、翌7日付の社説では「この問題を修復する最も適任は天皇本人だ」と書いた。
今回の慰安婦問題浮上の直接のきっかけとなった米下院外交委員会の決議案をめぐっては、安倍首相が1日「強制性を裏付ける証拠がなかったのは事実」と発言したのを受けて支持が広がっている。
05年末までホワイトハウスでアジア問題を扱っていたグリーン前国家安全保障会議上級アジア部長は、「先週、何人かの下院議員に働きかけ決議案への反対を取り付けたが、(安倍発言の後)今週になったら全員が賛成に回ってしまった」と語る。米国務省も今週に入り、議員に対し日本の取り組みを説明するのをやめたという。
◆知日派にも危機感
6日に日本から戻ったばかりのキャンベル元国防次官補代理は、「米国内のジャパン・ウオッチャーや日本支持者は落胆するとともに困惑している」と語る。
「日本が(河野談話など)様々な声明を過去に出したことは評価するが、問題は中国や韓国など、日本に批判的な国々の間で、日本の取り組みに対する疑問が出ていることだ」と指摘。「このまま行けば、米国内での日本に対する支持は崩れる」と警告する。
現在日本に滞在中のグリーン氏も「強制されたかどうかは関係ない。日本以外では誰もその点に関心はない。問題は慰安婦たちが悲惨な目に遭ったということであり、永田町の政治家たちは、この基本的な事実を忘れている」と指摘した。
その結果、「日本から被害者に対する思いやりを込めた言葉が全く聞かれない」という問題が生じているという。日米関係にとってこの問題は、「牛肉輸入問題や沖縄の基地問題より危ない」と見ている。
グリーン氏は今後の日本が取るべき対応として(1)米下院で決議が採択されても反論しない(2)河野談話には手を付けない(3)何らかの形で、首相や外相らが被害者に対する理解や思いやりの気持ちを表明する、の3点を挙げた。
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シーファー駐日米大使は9日、東京都内の大使公邸で朝日新聞などに対し、「決議案は拘束力のないものだが、この問題の米国での影響を過小評価するのは誤りだ」と述べた。さらに「米国には、河野談話からの後退を望む日本の友人はいない」とも語り、河野談話の見直しを模索する自民党内の動きを牽制(けんせい)した。