2月25日夕。世田谷区の下北沢地区再開発に反対する「Save the 下北沢」代表の金子賢三(43)さんは、中央区内のホテルにいた。市民団体関係者約400人が、浅野史郎さんに都知事選立候補を求めるため開いた集まりだった。
この集まりに出たのを機に浅野さんは出馬へかじを切る。金子さんは「トップを代えなければ、計画変更は難しい」。団体として、区長選と同時に知事選にも取り組むことを決めた。
「下北沢=シモキタ」の北沢4丁目で生まれ育ち、現在は自宅で1級建築士の仕事をこなす。
シモキタは、25年前に本多劇場ができたころから、若者が足を運ぶ街に変わり始めた。小田急と京王線が交わる狭い地域に洋服店や小劇場、ライブハウスが密集し、若者の流行を発信する「シモキタ文化」が生まれた。
再開発の計画が持ち上がったのは01年だ。小田急線の地下化計画に合わせ、世田谷区は駅北側に最大幅26メートルの区道を通し、駅前広場を整備する案を作った。
区長の熊本哲之さん(75)は「消防車も入りにくい。震災対策やバリアフリーも含めた安全・安心な街づくりが必要だ」と語る。「静かに暮らせる環境が欲しい」「高齢者が安心して暮らしたい」と考える住民もたくさんいる。
でも金子さんは「なぜ、道路が必要なのか、分からなかった」。駅の地下化で空く地上を活用して、防災に対応できるのではないか。開発でシモキタらしさが失われるとの懸念もあった。医者や音楽ライター、飲み屋オーナーらが集まり、03年、「Save」として反対運動を始めた。
1万人以上の反対署名を集めた。かわらばんを作り、配った。「再度の話し合い」を求めて、区の説明会を阻止する行動に出たこともあった。だが、「住民の意見にはこれまで十分耳を傾けてきた」とする区側とは平行線のままだった。
結局、昨年10月、区都市計画審議会は賛成多数で区の計画案を可決し、ゴーサインを出した。
これまで政治とは無縁だった金子さんは、これを機に「次は区長選で戦う」と決意を固めた。
現在作製中のポスターは「シモキタの未来が決まる区長選 4・22」。活動に賛同するアーティストのリリー・フランキーさんにイラストを依頼した。
デモや勉強会など、活動の場に少しずつ若者たちの姿が増えてきた。しかし4年前、5候補が競った区長選(投票率40・62%)で、20歳代の投票率は16%程度(区選管推計)。「若者の街」の主人公たちが投票で意思表明してほしい、との思いをポスターに込める。
「区長選は、もう少し大きなテーマがいいのではないか」。講演を依頼した前長野県知事の田中康夫さんに、こう言われたことがある。
金子さんの考えは違う。「市民が夢を持って街づくりに参加できるのか、が問われている。シモキタという地域だけの問題ではない」
区長選には、計画を推進する立場の熊本さんのほか、「計画を一時凍結し、区民と再検討」と主張する前助役の水間賢一さん(66)、「計画凍結で住民税減税などを実施」とする公認会計士の鈴木義浩さん(46)が立候補表明している。
会から候補を擁立することも検討したが、反対票が割れる心配もあり断念。鈴木さんを支援する。
都知事選と区長選で何ができるのか。具体策を模索中だ。(水山和敬)
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