[弁護士懲戒請求]「裁判の迅速化が問われている」
裁判の迅速化は国民的な要請だ。それを妨げる弁護士の行為に対し、弁護士会は厳しい姿勢を示す必要があるだろう。
オウム真理教の松本智津夫死刑囚の控訴審を担当した2人の弁護士について、東京高裁は、「迅速な審理を妨げ、被告人の利益を著しく損なった」として懲戒請求した。裁判所による弁護士の懲戒請求は、過去に4件しか例がない。1970年以来37年ぶりという異例の事態だ。
両弁護士は高裁の再三の求めにもかかわらず、期限までに控訴趣意書を提出しなかった。一度は延期を認めてもらいながら、その期限日にも提出を拒んだ。
控訴審の弁論や調査は、趣意書がなければ実施できないため、期限内に趣意書が出されなければ、裁判所は控訴を棄却しなければならないことになっている。その結果、被告人の死刑が確定した。
両弁護士は被告人の精神鑑定に問題があるとして、趣意書提出を拒否したが、審理の引き延ばしが狙いだったと見られている。懲戒請求はそうした行為を問題にしたものだ。
高裁は今回いきなり、異例な措置に踏み切ったわけではない。
松本死刑囚の刑が確定した後、まず日本弁護士連合会に対し、両弁護士の訴訟遅延行為について「適当な処置」をとるよう求める処置請求をした。この手続きでは、何をもって「適当な処置」と見なすかは弁護士会に委ねられている。
しかし、日弁連は「処置請求の目的は審理の障害を取り除くことだから、裁判終了後には請求できない」として、両弁護士の問題行為について調べもせずに、高裁の請求を門前払いした。
処置請求は89年以降行われていなかったが、司法制度改革の議論の中で、迅速化への妨害行為に対しては積極活用することが法曹三者らの間で合意された。
弁護士自治を尊重した手続きだったため、日弁連も了承した。「処置請求に対する取扱規程」も新たに策定し、昨年4月から施行したばかりだった。
こうした経緯があるにもかかわらず、高裁の処置請求を入り口で退け、両弁護士の不処分を決めた日弁連の決定は、裁判迅速化に向けた法曹界全体の努力を無にするものだとも言えよう。
裁判員裁判の開始が間近に迫っている。裁判所にとって、弁護士による迅速審理の妨害は、ますます看過できないものになっている。
弁護士会は、両弁護士の行為が懲戒相当かどうかを審査することになる。訴訟遅延の問題を厳しくとらえ、早急に厳格な結論を出すべきだろう。