■OB・ノンキャリ 身内に同情
「慚愧(ざんき)に堪えない。国の機関として恥ずかしい。国民におわび申し上げなければならない」
冬柴国土交通相は8日、幹部職員を緊急に集めて訓示した。安富正文・事務次官も謝罪会見を開いた。緊急の再発防止策も発表した。省内は表面上おわび一色となった。
しかし、職員の反応をみると、様相は異なる。
今回、国交省の有力OBとして談合を承認していたとされるのは、キャリア組の元技監や元国土地理院長。ある現役幹部は「談合関与とみなされるのは厳しすぎる。なんの権限もない、1人のOBなのに」と言う。別のキャリア職員は「先輩2人は、時代の変化に気づかなかったのだろう。今後は、OBの再教育もしなければならないのか」と話した。
現職当時の指示行為を認定された元課長補佐ら2人にも同情論がある。ともにノンキャリアの技官だった。退職後の天下り先も、上場企業役員になるキャリア官僚とは異なる。とりわけ水門機械の担当は省内で主流とはいえないという。
あるノンキャリアの技官は「国交省の天下りは、公共事業の削減と世論の批判で急速に厳しくなっている。業界と深くかかわることで、自分の力で退職後の将来を開きたかったのかも」と同情的だ。
公取委から改善措置を要求される事態になっても、省内でのキャリアとノンキャリアの溝はなお深い。キャリアの一人は「官製談合は、ノンキャリアの職員が積極的に関与した。キャリアだった元幹部のほうは過失」。一方、ノンキャリアの技官は「上の人たちは下の者の事情と心情を理解していない。元課長補佐は犠牲者だ」。
「心を一つにして、再発防止に取り組まなければならない」。そんな冬柴国交相の決意が、むなしく聞こえる。
■天下り、関連解明できず
公取委幹部は「課徴金減免制度がなければ、官製談合防止法の適用もなかった」と調査を振り返る。物証が乏しい事件の立証を支えたのは、業者側の供述だった。
昨年1月施行の改正独占禁止法で導入された課徴金減免制度に基づき、最初に「自首」したのは三菱重工業。同年3月に公取委が立ち入り検査に着手すると、日立造船など談合の主要メンバーからも申請があり、「否認したところは1社もなかった」(公取委幹部)。
官側も外堀を埋められ、同省元課長補佐らが最終的に関与を認めた。
しかし、元課長補佐や聴取を受けた同省OBは、別の幹部や現職職員の関与を認めることはなかったという。
官側が談合にかかわるようになった動機も、解明されなかった。
元課長補佐らが「天の声」を出すようになったのは01年春。地方建設局ごとに職員やOBが「官側の意向」を業者に伝える仕組みだったとみられるが、業者側から窓口の一本化を求められたのがきっかけという。ダム用水門でも元技監らが談合に関与するようになったのは、「業界側の希望だった」などと一部の業者が供述しているという。
では、官側に業界の希望に応じる理由があったのか。天下りの受け入れが官側の動機の一つだった疑いが浮かんだが、公取委の調査では、天下りと受注の明確な関係は立証できなかったという。
郷原信郎・桐蔭横浜大学法科大学院教授は「談合構造の解消のためには、なぜ談合が恒常化していたのか、官がなぜ関与したのかについての解明が欠かせないが、公取委の調査だけでは限界がある。国交省が積極的に事実解明に取り組むべきだ」と話している。
http://www.asahi.com/national/update/0309/TKY200703090024.html