「対応を誤れば視聴者の不信は増大、公権力介入を許すことになる。(BPOの)強化を図らなければならない」
七日の記者会見でBPOの清水理事長はこう述べ、危機感をあらわにした。
同席したNHKの橋本元一会長も「BPOの力を借りずに各社自律の精神でやれれば一番いい。まずは自分たちの足元をしっかり見せなければ」。民放連の広瀬道貞会長も「BPOの力を借りる点では喜ばしくないが、政府内外でも評価してもらい、しばらくはそうした動きに任せてみようという空気がでてきたらいい。これを機会に出直し的改革をしたい」と苦渋の表情を見せた。
新たに設けられる委員会では、「虚偽の内容の放送」を検証、審理し、「勧告」や「見解」を出す。その後、一定の期限を決め、再発防止計画の提出を求め、意見を付して公表、実施状況を検証するとしている。
作業グループの座長を務めるNHKの岡田円治編成局長は「場合によって臨時に拡大し、専属の調査要員もお願いする。委員にはフルタイムでやれる人を選びたい。難しいが(そうしないと)総務省に先を越されてしまう。機動性が大事だ」と説明した。
また局側は「(新委員会が)報告を求める時に拒否せず応じたり、放送済みテープを提出するよう求めがあったら最大限協力する。NHKと民放連が協定を結び放送事業者の義務として最大限協力する形にする。それで強制力を担保していきたい」(岡田局長)という。
しかし、委員会で取り扱う「虚偽の内容の放送」とは具体的にどんなものを指すのか、その基準についてはあいまいだ。「各放送機関の放送番組基準などに照らし合わせたい」と岡田局長。BPOの村井功専務理事も「放送と人権等権利に関する委員会(BRC)発足時も、基準を設けず委員の意見を踏まえケース・バイ・ケースで判断を積み重ねた」と述べるにとどまった。
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さて、問題は今回の取り組みで視聴者の失った信頼を取り戻し、公権力の規制強化の動きをも押しとどめられるかどうかだが、青山学院大学の大石泰彦教授(メディア倫理)は、今回の対応策を「放送倫理を制作者ではなく、外部の有識者に丸投げしようとしている。倫理の外注化だ」と批判する。
放送法改正案に盛り込まれる再発防止策と大きな違いがないことを挙げ、「自主的にとはいえ、国に言われてあわてて対応した。BPOは完全に国の“下請け”になってしまった。放送界にとって大変不幸なこと」と懸念も。「現場を見ずに組織防衛的につくった感が否めない。(委員会で扱う番組の)『虚偽の内容』とは何なのか。やらせと演出、そして演出と虚偽の差も明確に記されていない」と不満もあらわに語る。
二月二十一日に関西テレビの千草宗一郎社長から意見を聴取後、「危機意識が薄い」と酷評した自民党の通信・放送産業高度化小委員会の片山虎之助委員長も「(機構を)いじったりするが、結局は大きな効果はない」と冷ややか。「参考にはするが、(法改正)論議には大きな影響はないだろう」と、本紙の取材に突き放したようなコメントを寄せている。
■実効性は疑問
放送評論家志賀信夫さんの話 今回の放送倫理・番組向上機構の機能強化は、捏造問題をきっかけに広がる視聴者の不信感をぬぐい去るため、放送各局が手っ取り早くできる策として考え出したのだろう。捏造を生み出した視聴率至上主義の制作姿勢を真に反省した措置とは言えない。放送界が変革することは期待できず、再発防止の実効性も大いに疑わしい。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/hog/20070308/mng_____hog_____000.shtml