この本は核開発をめぐる北朝鮮有事を想定、日本や米国の政治、軍事、外交での対応のシミュレーションと解説を合わせたものだが、一部政府関係者からも「北を利することになりはしないか」との声も出ている。それもそのはず、安全保障の現場のプロたちと「(プライベートに)何十時間も」徹底議論し、細部まで吟味してあるためだ。
200X年8月、北朝鮮が核兵器をテロリストに売却するという情報を入手した米政府はついに「レジーム・チェンジ」(体制転換)を決意した−。
前半のシミュレーション・パートはそんな緊迫した場面から始まる。だが安手のシミュレーション小説と違うのは、事態がエスカレートしていくにつれて、「全面的な経済制裁」「先制攻撃」「核保有」「解釈改憲」など想定されるいくつもの政策的な選択肢を、政権中枢が検討するスタイルでリアルに描き出していることだ。
度重なる小競り合いの結果、米軍が先制攻撃を開始。韓国領内へは北朝鮮軍が侵攻し、日本には複数のノドンミサイルが飛来し、このうちの何発かは着弾してしまう。迎撃ミサイルも撃ちつくして後はなすがまま、並行して工作員による同時多発テロも発生…。
よくもこれほど不愉快な想定を詰め込んだものとも言いたくなるが、これが今の日本のおかれた状況でもあるのだ。
著者の須川氏は銀行員から米シンクタンクの元研究員となり、96年に民主党入りした気鋭の安全保障専門家。
小説スタイルで本を書くのは初めてだが、「ストーリーを追っていくことで、日本の外交・安全保障上の制約や弱点、米国や韓国、中国の本音や思惑がわかり、戦略的な思考とは何かということを理解できるように構成した」と話す。
後半部分は「不愉快な現実を直視せよ」と題した解説。ここでは、前半パートを絞り込んだエッセンスのほか、日本外交の現状、政治システムに対する容赦のない批判も展開される。
その須川氏に、北朝鮮の今後の出方についてたずねてみると、「核放棄の可能性は限りなくゼロ」と断言。「北朝鮮にとって核保有は体制維持とは切り離せず、対米関係だけでなく、国内的な威信を保つ上でも放棄はできないからです」
2月の6カ国協議の合意についても「北朝鮮も米国も中国も、当面の時間稼ぎという一点で利害が一致しただけ」とバッサリ。「北朝鮮が合意をバカ正直に守ると期待する方がどうかしている。本当のゲームはこれから始まると思っておいた方がいいでしょう」と覚悟を促している。
ZAKZAK 2007/03/08