〈旅の恥はかき捨て〉は〈1〉旅先は知り合いもいないので、失敗がその場限りですんでしまう〈2〉旅先ではふだんはやらないような恥さらしも平気でやること◆だが、岩波ことわざ辞典によると〈2〉の意になるのは近代以後のことらしい。〈道中膝栗毛〉にはこのことわざが3度も使われているが、旅先での不案内からくる軽い失敗◆例えば、手ぬぐいと絹のふんどしとを間違えて顔をふいてしまい、女中に笑われるといった話だ。そそっかしさからくる恥なら笑い話ですむが、旅先を狙い意図的にやる恥さらしは始末が悪い◆高速道路のサービスエリア(SA)に大量のごみが持ち込まれている。野菜の切れ端などの生ごみからテレビ、パソコン、冷蔵庫、クーラー、アイロン、ファクスまで、SAルポを読んであきれ返る◆ネコの死骸(しがい)が捨てられていたこともある。恥のかき捨てどころでない。米国の文化人類学者、R・ベネディクトが〈菊と刀〉(1946年刊)で恥と義理と恩の日本文化を論じたのも遠い昔になった◆モラル劣化の度が進んでいる。恥の文化は今いずこ。