進学や入学、就職を前に新しい辞書を探している人も多いことだろう。最近はインターネット版の辞書も増え、便利な検索機能や割安な月額定額制など、書籍版とは一味違うサービスで利用者を増やしている。
様々な辞書を集めたポータル(玄関)サイトや、利用者が用語の説明文を書き込んでいく参加型の「無料百科事典」も人気だ。(河野越男)
書籍版と連動三省堂は昨年10月、国語辞典「大辞林」、英和・和英辞典「ウィズダム」の購入者にパスワードを与え、各辞書のネット版サイト「デュアル・ディクショナリー」を無料で利用できるサービスを始めた。
大辞林の書籍版は収録語数が23万8000語。ネット版は新語や俗語を中心に1万語追加した。今後も年2〜3回の頻度で1000語程度を追加していく計画だ。例えば「船出」と検索すれば「出港」などの類語も一覧表示される便利な機能も備える。ウィズダムのネット版は書籍版より用例を2000増やした。
三省堂にはネット版との連動で書籍版の利用者を増やす狙いがあり、昨年10月に発売した大辞林の第3版は10万部の販売を目指す。ネット版の登録者は5000人を超え、辞書出版部の滝本多加志次長は「ネット版は新語を素早く追加できるなど、機動性がある。今後も新しい辞書作りに挑戦したい」と話す。
有料サイト小学館は今年の夏に「日本国語大辞典」(第2版、全14巻、22万500円)のネット版を有料で始める。子会社のネットアドバンスが運営する辞書機能サイト「ジャパンナレッジ」からネット版に接続し、月1575円の定額制で収録50万語を簡単に検索できる。ネット版の契約を10年以上、毎月継続しても、書籍版を全巻そろえるより割安だ。
ジャパンナレッジは辞書のポータルサイトとして人気を集めている。月1575円の会費を支払えば、百科事典の「日本大百科全書」(小学館)や「現代用語の基礎知識」(自由国民社)など約20種類のネット版の辞書が自由に使える。
一方、岩波書店は国語辞典「広辞苑」の携帯電話サイト版を2001年から運営している。月額基本料は105円で、会員は数十万人にのぼるという。
「無料」「利用者参加型」もネット検索大手のヤフーは国語、類語、英和、和英の計七つの辞書機能を備えた「ヤフー!辞書」をサイトに設け、利用者は単語を無料で検索できる。例えば大辞林は改訂前の第2版だが、7辞書合計で85万4000語の検索が可能だ。出版社への利用料はヤフーが支払っている。
利用者参加型の無料百科事典「ウィキペディア」も人気だ。社会、科学、技術、文化などの各分野で、利用者が自ら用語を設定し、他の利用者と説明文の編集を重ねていくユニークな方式だ。民間調査機関のネットレイティングスによると、1月の月間利用者は1474万人にのぼった。ただし、記載されている内容が正確かどうかは利用者が自分で確認する必要がある。
書籍版の販売、10年で半減辞典協会によると、国語、英語などの一般的な辞書から、技術系など専門的な辞書を合わせた書籍の辞書の販売数は約10年間で650万冊に半減した。電子辞書やネット版辞書の普及に押されているためだ。
電子辞書は持ち運びやすさが好評で、ネット版はパソコンでリポートなどを作成する際、手軽に検索してコピーできる点などが持ち味だ。電子辞書やネット版の辞書が急速に普及してきたのは、他の書籍よりもデジタル媒体に適したデータベースだったためで、書籍版にはない検索機能も利用者の要求を満たしている。
一方、書籍版にも「目的の単語以外の用語なども目に入るため、辞書を『読む』ことによる学習効果が期待できる」(三省堂)などの利点がある。「ページをめくる」作業は大切なようだ。書籍版の市場縮小に危機感を強める出版各社は、ネット検索機能に慣れた利用者をどうとらえていくか試行錯誤の真っ最中だ。