「今日は新しい不二家になると宣言する日だ。払った代償は大きかったが、生産と販売再開の目標ができたことはうれしい。今後はもっとお客さまに近づいていく。信頼をもう一度勝ち取っていきたい」−桜井康文社長は一日の記者会見で力強く語った。
桜井社長の心情は理解できるが、不二家はいつ倒産してもおかしくない状況だ。それほど一月に発覚した不祥事はひどかった。埼玉工場などでは長年、消費期限切れの牛乳や賞味期限切れのりんごなどを使ってシュークリームやアップルパイなどを製造していた。ネズミが徘徊(はいかい)していたとの指摘もあった。
もっと驚くのはそうした実態を昨年秋に把握しながら、社内文書で「発覚すれば雪印乳業の二の舞いは避けられない」と“隠ぺい”しようとしたことだ。これでは消費者の信頼を得られるはずがない。
不二家の工場は相次いで生産・販売休止に追い込まれた。二〇〇七年三月期連結決算は営業赤字が五十億円程度と過去最悪になる見通しだ。放置すれば倒産は必至である。
不二家にとって幸運だったのはパン・洋菓子最大手の山崎製パンが技術と資本両面で支援に名乗りでたことだ。不二家は品質管理の改善にあたり山崎製パンが採用している米国の厳格な食品安全基準の導入と、専門技術者派遣を受け入れた。
有識者による「外部から不二家を変える改革委員会」(委員長・田中一昭拓殖大教授)が的確な再建方向を示し、「信頼回復対策会議」(議長・郷原信郎桐蔭横浜大法科大学院教授)がコンプライアンス(法令順守)の不徹底を厳しく戒めたことも企業姿勢を変える機会となった。
だが、安全宣言で同社が経営危機から脱出したわけではない。信頼回復はこれからだ。なによりも消費者や卸・小売店、フランチャイズ店など多くの関係者に対して再発防止策と経営再建策の説明が必要だ。そして同族経営の長期化で風通しが悪くなった企業体質を改善していく。継続的な情報公開も不可欠である。
愛嬌(あいきょう)のあるペコちゃん人形は子どもたちの人気者だ。小学五年生からは「今年は不二家の誕生日ケーキはなしだ」と父親から言われたとの手紙が寄せられたという。老舗ブランドにあぐらをかいてはいけない。それを肝に銘じておくべきである。
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